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対人認知と擬人化、パレイドリアなどの現象を通じて、私たちの認知エラーがどのように生じるかを探ります。イグノーベル賞に関連した研究も紹介し、トップダウン処理の重要性を解説します。#放送大学講義録(心理と教育へのいざない第9回)

------講義録始め------

 

さて、前のセクションでは対人認知と物の認知が異なる心の働きであることを説明しましたが、時として私たちは物を人間として認識することがあります。これは擬人化と呼ばれる現象です。本来は物であるはずのものを人間として認識するという意味で、擬人化は対人認知のエラーと言えますが、なぜこのようなエラーが生じるのかを紐解くことで、対人認知という心の過程についてより深く理解することができます。

まず、擬人化と関係が深いパレイドリアと呼ばれる現象について見ていきたいと思います。パレイドリアとは、元々は無意味なものを知っているもの、意味があるものと解釈する現象のことを指します。身近な例としては、月の模様がウサギの餅つきをしている様子に見えるといったものがあります。ただ、月の模様のように無意味な模様が人間以外の事物として認識される例は少なく、パレイドリア現象において圧倒的に多いのは人の顔として誤認識される例であることがわかっています。

皆さんも、電源コンセントが人の顔に見えて微笑んだり、壁の木目や写真に写った光の影が人の顔に見えて幽霊ではないかと怯えたりといった経験を1つや2つお持ちではないでしょうか。年配の方なら「人面魚」ブームを覚えているかもしれません。

イグノーベル賞という賞をご存知でしょうか。ノーベル賞の頭に「イグ」という否定の接頭語を付けたこの賞は、ノーベル賞のパロディとして創設されたもので、研究者本人は大真面目にやっているのだけれども、外から見ると思わず笑ってしまう研究に与えられます。しかし、ただ笑わせるだけではなく、よく考えると意味深い研究にも賞が与えられています。本家のノーベル賞には心理学の賞はありませんが、イグノーベル賞では心理学に関する研究が頻繁に受賞しています。

その1つに、このパレイドリア現象に関する研究があります。それは、トーストの焦げがキリスト像そっくりだと世界的に話題になったことをきっかけに行われた研究で、その研究によれば、ただのノイズでしかない画像に顔が隠れていると信じ込まされると、約3分の1の実験参加者は実際に顔が見えたと言い、その時には本当の顔を見た時と同じような脳の活動が見られたといいます。一方、同じ画像を見せて、そこに文字が隠れていると信じ込まされると、やはり約3分の1の実験参加者は文字が見えたと答えましたが、その時の脳の活動は顔が見えた参加者のものとは異なるものでした。

これは、私たちの認知が外から入ってくる情報のボトムアップ的な処理だけでなく、元々持っている知識によるトップダウン的な処理に基づいていることを示しています。この研究では、実験の操作として文字が見えると信じ込まされる条件が設定されていましたが、普段の生活においては無意味な模様に顔を見ることが非常に多いことが知られています。私たちは日常的にたくさんの人と接しており、それらを識別するために非常に多くの顔の知識を持っています。その知識が、無意味な模様を顔と認識させ、顔としての情報処理を行うことにつながっているのだと考えられます。