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公共政策の形成と専門知識の重要性(公共政策第11回)♯放送大学講義録

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この公共政策という科目は大きく3つのパートで成り立っていますが、今回から公共政策の形成というテーマに入ります。公共政策はどのように形成されるのか、そこに関係する人々がどのように行動するのか、その政策形成のプロセスが何に影響されているのか、といったことを考えていきたいと思います。

まず、その手始めとして、今日の授業では、公共政策を形成する上で極めて重要な意味を持つ「知」のあり方について検討することにしましょう。と言いますのも、専門性に裏打ちされた知の基盤がなければ社会の問題を公共政策で解決することができないからです。これが副題にあるように、基盤としての専門知に込めた意味合いです。

社会の問題を解決するために公共政策があるということは、何より問題の全体像を的確に把握する必要があります。その上で、解決の方向性を定めるとともに、その解決に必要な政策資源の確保策といった政策の設計図を作っていくことが求められます。ただ、単に設計図を書いただけでは絵に描いた餅になってしまいますので、実際にそれを実施することで現実に作用させなければなりません。そうしますと、現状認識が間違っていては問題解決には至りません。解決の方向性が的外れでもダメですし、必要な資源が確保できなければ解決は遠のくことになります。そのため、政府には、複雑な社会や技術的な問題を理解することを始めとして、高度な専門家が求められます。この専門家の内容についてはすぐ後に取り上げるとして、いずれにしても、素人が思いつきや生半可な知識をもとに公共政策を形成しては、うまくいかないことが多いのです。

とはいえ、政府内部で政策形成に携わる政治家や行政官たち自身が高度な専門知を保有しているとは限りません。むしろ、それは稀だということも言えるでしょう。したがって、どうすれば専門知を活用することができるかが問われることになります。それがうまくいかなければ、問題のある不合理な政策がまかり通ることにもなります。簡単に専門家の判断だけに依存することになれば、政策決定の責任が不明確になる可能性もあります。

 

 

 

高齢者支援:成年後見制度と不動産信託(暮らしに活かす不動産学第11回)#放送大学講義録

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では、こうした問題が起こらないようにするにはどうしたら良いのでしょうか。

そこで、認知症などの理由で判断能力が不十分な者を保護し、支援する法制度として、成年後見制度が設けられています。この制度の役割は、家庭裁判所により選任された成年後見人、補佐人、補助人や任意後見契約で定められた任意後見人が、本人の利益になる契約が有効に結ばれるように支援したり、逆に本人の不利益になる契約が結ばれないよう保護したりすることです。

法定後見制度のメリットとしては、判断能力の程度など本人の事情に応じた保護、支援が受けられるように、後見、補佐、補助の3種類が用意されていることです。そして、家庭裁判所により選任された成年後見監督人、補佐監督人、補助監督人が成年後見人、補佐人、補助人を監督するため、彼らが本人の保護や支援に反する行為をすることを防止できます。

次に、任意後見制度のメリットとしては、本人に十分な判断能力があるうちに自分で代理人、すなわち任意後見人を選任して代理権を与える事務を任意後見契約で定めるので、本人の意思に従った保護、支援が可能です。そして、家庭裁判所が選任する任意後見監督人が任意後見人を監督するため、任意後見人が本人の保護や支援に反する行為をすることを防止できます。

 

そして、信託という方法もあります。どんな方法でしょうか。

高齢者のためのもう1つの仕組みとして、不動産信託制度があります。信託の意義や仕組みについては、印刷教材で解説しています。高齢者が所有する不動産を信託する相手、つまり受託者としては、信託業者だけでなく、家族や親族など信頼できる人を選ぶことができます。

不動産信託を利用するメリットは、不動産の管理、運用、処分が円滑に行われる点です。民事信託の場合、信頼できる第三者に信託の受託者あるいは同意権を与えておけば、委託者である高齢者が認知症などにより意思決定ができなくなったり、自ら監督できない状況になっても、受託者が不動産の管理、運用、処分を適切に実施するよう、監督者や同意権者がチェックしてくれます。また、高齢者が死亡した場合、受託者は不動産を売却して諸費用を精算した残額を相続人に支払うため、相続をめぐるトラブルも起きにくいとされています。

 

 

 

認知症高齢者の不動産契約リスク(暮らしに活かす不動産学第11回)#放送大学講義録

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「ちょっとお母さん、それ本当?その人の連絡先を教えて。

わかった。じゃあまた電話するから。うん。じゃあね。」

「今度は何があったの?」

「いや、なんか突然人が訪ねてきて、マンション買いませんかって言われたらしい。今買っておけば10年後には500万円は高くなるって。」

「あなたのお母さん、マンションを買うお金があるの?」

「自宅を担保に借りるとかなんとかって。この間電話がかかってきた時、最近よく物忘れをするとか、買い物に行く道を間違えるとか言ってたから、認知症かもしれないから病院に行ったらって勧めたばかりなんだよ。とにかく、明日その人に電話してみる。」

 

太郎さん、花子さん、悩んでいましたね。認知症のお母さんが不動産契約を結ぶことが有効でしょうか。心配ですね。教えていただきましょう。

太郎さんと花子さんの会話のように、高齢者と不動産をめぐってトラブルになることがあります。最も深刻なケースは、高齢者が不動産を売却した際に、その契約の有効性が争われることです。そこでの争いのポイントは、認知症などにより正常な判断ができない状態にある高齢者が、契約を有効に結ぶことができるかどうかという点です。有効な契約を結ぶためには、意思能力が必要です。

意思能力とは、自分が結ぼうとしている契約の内容、特に権利義務、何を得て何を失うのかについて理解する能力を意味します。つまり、所有している不動産を売れば代金を得ることができますが、その一方で、代金以上の価値があるかもしれない不動産を手放すことになります。その意味を理解する能力です。また、自宅を売却すれば、住む場所を他に求めなければなりません。あるいは、不動産を担保として差し入れれば、競売にかけられてその所有権を失うかもしれません。そうしたリスクを含めた契約の結果について理解する能力が意思能力です。

そして、意思能力は常に持っていなければならないわけではなく、契約時点における意思能力の有無により契約の有効性を判断します。ですから、認知症の高齢者であっても、症状が一時的に改善して正常な判断ができる場合には、有効に契約を結ぶことができます。他方、若い人でも泥酔して判断ができない状態にある時は、意思能力があるとは言えません。

高齢者が不動産を売却して、その契約の有効性をめぐって裁判で争われた場合には、裁判所は関係者の証言、医師の診断、関係書類などの証拠に基づき、契約当時の本人の心身の状況、売却の事情や経緯、契約の内容などを総合的に考慮して、本人にどの程度の判断力、理解力があったかを判断します。その結果、契約当時に意思能力がなかったと判断されれば、契約は無効とされます。

しかしながら、認知症などで判断能力が衰えた人が契約を結んだ場合、争いがあるたびに裁判所に判断を求めなければならないのは非常に大変です。今お話しいただいたように、今後ますます深刻になる問題ですね。

 

 

 

シェア金沢:多世代共生型CCRCの新しい暮らし(暮らしに活かす不動産学第11回)#放送大学講義録

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このCCRCは日本でも進みつつあります。こちらの石川県金沢市にあるシェア金沢の特徴は、まず多世代共生です。高齢者だけでなく、学生や体の不自由な子供の児童入所施設が共存しています。そして、高齢者は店舗の販売の担い手を務めています。

また、学生は格安の家賃で住む代わりに、ボランティア活動を行うことが条件です。こうした多世代共生型のCCRCがシェア金沢の特徴です。

今後、CCRCは日本でどのように発展するでしょうか。高齢者には健康寿命を伸ばしたいというニーズがあり、継続的なケアやお金、心の充足を求める声があります。元気なうちに集って暮らすCCRCは、高齢者の新しい暮らし方、ライフスタイルとして注目されています。

では、今後日本でCCRCが普及するためには何が必要でしょうか。まず、こうした新しい住まい方、ライフスタイルをきちんと伝えることです。それは、高齢者に活力と安心の暮らしをストーリーとして理解してもらうことです。次に、地域連携です。施設単体だけでなく、周辺の学校、文化施設、医療機関との地域包括ケアの連携が重要です。

最後に、制度設計です。高齢者の住み替えを促進するために、中古住宅の買い取り制度や不動産に関わる減税、社会活動ポイントなどのアイデアを組み合わせることです。例えば、高齢者が地域で50時間ボランティアをする、または50時間大学で学ぶことで、その時間が将来の介護時間に転換できる、または地域で使えるクーポンとして5万円分を提供するなどの制度が考えられます。これによって日本でもCCRCが普及するのではないでしょうか。

日本では、地方創生や多世代共生としてCCRCが広がっています。高齢者が安心して住み続けられることは大切ですが、さらに各地域がそれぞれの魅力を高め、多世代が共生し相互に学び合える暮らし方につながることが期待されます。

 

 

 

継続ケア提供の高齢者コミュニティCCRC(暮らしに活かす不動産学第11回)#放送大学講義録

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また、アメリカにはCCRCがあります。CCRCとは何でしょうか?日本にはそのような場所がないのでしょうか。教えていただきましょう。

CCRCは、コンティニュイングケアリタイアメントコミュニティの略で、健康な時から介護、認知症になるまで継続的なケアを提供する高齢者のコミュニティのことです。では、なぜCCRCが求められているのか、その背景は何でしょうか。それは介護移転リスクです。

例えば、自宅で暮らしていて、病気や怪我がきっかけで入院し、その後老人ホームに入所すると、そこで重い介護が必要になったり認知症になったり、あるいは財産的な余裕がなくなると別の老人ホームや高齢者住宅に移るという介護移転リスクが高まります。これが「住宅すごろく」と呼ばれるものです。これは避けたいものです。

この介護移転リスクを払拭したのがCCRCです。健康な時から介護、認知症になっても、一つの場所で安心して暮らせる、継続的なケアを受けられるのがCCRCの理念です。

CCRCは全米で約2000か所あり、居住者は約70万人にもなり、大きな市場を形成しています。都市型、郊外型、リゾート型、さまざまな立地で展開されています。興味深いのは、大学連携型のCCRCです。

こちらのCCRCは大学の近くにあり、約400名の高齢者が暮らしています。余生を母校の地で暮らしたい、あるいは近隣の高齢者が集まり、再び大学に通い、学生と触れ合いながら元気に暮らしています。400名の居住者の平均年齢は84歳。そのうち約8割は健常者です。そして、介護や認知症になってもここで安心して暮らせるという住まいです。

さらに、隣に大学病院があり、これも大きな安心感に繋がっています。CCRCの基本理念は3つあります。体の安心、お金の安心、心の安心です。体の安心は健康支援や介護支援。お金の安心は生活コストや介護コストの安心感。そして心の安心は、集って暮らすことによって寂しくない繋がりが生まれ、生きがいが生まれることです。

この体、お金、心の安心が備わった住まい方、コミュニティが大事ということです。では、既存の高齢者住宅と比べてCCRCは何が違うのでしょうか。まずは健康状態です。具合が悪くなってからでなく、元気なうちに入居すること。そして入居動機。不安だから、あるいは迷惑をかけたくないからというネガティブな動機ではなく、健康寿命を延ばしたい、楽しみたい、役立ちたいというポジティブな動機です。そして、ここでの居住者は支えられる人でなく担い手であるという思想です。

 

 

 

バリアフリー現代長屋:高齢者向け住まい(暮らしに活かす不動産学第11回)#放送大学講義録

グループリビング「園の森」の説明の続きである。

 

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あともう一つ、ここは現代版の長屋のような住まいを考えています。法人がサポートする以前に、入居者同士でさりげなく付き合うことをしたいのです。防音もしっかりしていないので、何かあったら壁を蹴っ飛ばすからね、と言って助けに来てくれるような関係を築きたいと思っています。

例えば、腰を悪くして湿布を貼るのが難しい時には、当番を決めて湿布を貼る役割を担うなど、緩やかな連帯感や支え合いができる住まいを目指しています。

そうしますと、こちらは新しい高齢者の住まいを提示されていると思いますが、どうしてこういった住まいをお作りになろうと思ったのでしょうか?

そうですね、日本の住宅は特に30年、40年前に建てられたものが多く、バリアが多い家に住んでいる方が多いです。玄関から外へ出られない、2階に部屋があると降りられない、2階はデッドスペースになっているなどの問題があります。バリアフリーだったら在宅介護が楽で、もっと住み続けられるのではないかと感じました。

バリアのない住まいを共有することで、できるだけ最後までここで暮らせるように、ご本人の希望に沿って住まうことができるのではないかと思い、実験的な住まいとして考えています。

うちの売りは、「ボラ」と略称で呼んでいる住み込みボランティア制度です。住んでいる方が隣のグループホームやデイサービス、少し離れた小規模多機能施設にボランティアとして関わっています。大雪でも降らなければ、傘もささずに行ける距離ですので、交流ができ、生きがいとなり、私たちもとても助かる関係ができています。

高齢期には多様な住まい方がありますね。

 

 

 

自立高齢者向けグループリビング「えんの森」(暮らしに活かす不動産学第11回)#放送大学講義録

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最近では、高齢期の住まいとして様々な選択肢が登場しています。その一例として、グループリビングという住まい方があります。今回は、埼玉にあるグループリビング「えんの森」をご紹介します。

こちらは老人ホームでも、サービス付き高齢者向け住宅(通称「サ高住」)でもありません。NPO法人暮らしネット・えんが運営する新しい高齢者用の住まいです。この法人は、ホームヘルパー事業、介護保険のケアプラン作成、認知症の方向けの小規模デイサービス、認知症の高齢者用グループホーム、そして民家を改修した小規模多機能型ホームを運営しています。

2011年には、グループホームの隣に、高齢者が健康なうちから一緒に暮らし、お互いに助け合う住まいが誕生しました。

入口を入ると、1階にはみんなで弾けるオルガンのあるアトリエやお風呂があります。2階にもお風呂とゲストルームがあり、各階には個室が設けられています。広いリビングでは、皆さんが一緒に夕食を楽しむことができます。

代表の小島さんにお話を伺いました。

「高齢者用の住まいには色々な形態がありますが、こちらのグループリビングはどういったものなのでしょうか?」

「基本的に自立していて、自分の意思がはっきりしている高齢者のための住まいです。ここはあくまで集合住宅であり、基本的にサービスの提供はありません。ただし、夕食を一緒にとることで連帯感を形成します。必要なサービスについてはケアマネージャーと相談するか、当法人にご相談いただければ支援が可能です。」

「各入居者がそれぞれの部屋を借りて暮らし、必要なサービスは在宅と同様に外部から受けることができるのですね。」

「そうです。その通りです。」

このように、グループリビングは高齢者が自立して暮らしながら、必要に応じて支援を受けられる住まいです。