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喪失と悲嘆(死生学のフィールド第10回)

絵本の朗読にはキーボードを打ちながら涙が溢れてきた。

 

坂口幸弘。様々なものを失いながら生きる。喪失の連続。目の前が真っ暗に。死別は他人事ではない。身近な人の死に。長生きすれば多くの別れを。夫婦であればどちらかが伴侶の死を。同時に死を迎えることはまず無い。女性の方が平均寿命が長いなどで多いが。平成22年の国勢調査。女性の半数以上、男性の5人に1人が伴侶を亡くしている。夫婦が揃って老後を。死別で生じる悲嘆について。何を感じて何を思うか。何も考えられなかったりすることも。頭の中が真っ白に。葬式をどのようにしたかは覚えていない人も。悲しみという1語では説明できない。気が狂いそうなどの。表し方は人により異なる。大声を上げて泣く、じっと悲しみを堪えて。怒りの矛先が身近な人に向かう。理不尽とも言える怒りが。怒りが自分自身に。罪悪感や自責の念。病気にもっと早く気づいていれば。些細なことでも当人には心残りに。遺族が経験するのは感情ばかりではない。死別の影響は身体面にも。多くは不眠。ぐっすり眠った感じがしないなど。食欲が無くなる。何を口にしても味気なく感じる。日常生活の行動にも。外にでかけたくない、近所の人に会いたくない。不幸な出来事だが負の感情だけではない。長い闘病生活の果には開放感や安堵感も。亡き人との関係や状況は千差万別。悲しめなかったり安堵感などがあるのも不思議なことではない。無理に抑え込んだりする必要はない。死別により生じる感情の多くはグリーフ、悲嘆と呼ぶ。グリーフとは喪失に関する衝動的反応。症候群。グリーフは死別だけでなく他の喪失体験なども。悲しみだけでなく個人差が大きい。同じ人でも時間とともに変化することも。日本語で悲嘆といえば悲しみ嘆く意味に。症候群という意味合いに比べ狭い。狭い意味での悲嘆ではなくグリーフの訳語として。正常な反応。決して小さくはないが、悲嘆は病気ではない。うつ病と似たような症状があるが、基本的に区別される。最愛の人を失ってから後を追うように亡くなることも。死亡や精神疾患身体疾患にかかる割合は増加する。男性の方が女性より死亡率が高い。男性でも若い人の方が。肝硬変なども関係している。死別後にうつ病になる恐れも。うつ病の基準を満たしていた人は1年後では16%。日にち薬。時間は心を癒やす良薬。薄らぐ。死別の悲しみは時間だけで解決できないが、経過する中で心は変化する。悲嘆は直線的に低減するのではない。行ったり来たり、波のように揺れ動きながら低減する。悲しみが消えることはないとしても離れられる時間は増えていく。治りかけた傷口から血が。命日や誕生日、結婚記念日などが近づいたりすると記憶が蘇る。記念日反応。季節の情景と共にありありと思い出される。当日を1人で過ごさないなどの対策を。
悲嘆に関連した概念。慢性疾患による死。一定の時間が。家族や親族らは希望を抱きつつも弱っている様子で悲しみを深める。予期悲嘆。避けたりコミュニケーションが取れなくなったり。死別後の悲嘆を先取りしたものではない。経験したからと言って死別後の悲嘆が小さくなるとは限らない。犯罪被害、自然災害により突然に大事な人を失う。突然の死は残された者に大きな悲嘆を。突然の死であれ予期された死であれ、遺体を見たことで突きつけられる。遭難事故や行方不明者の場合、死んでいるのか分からないことも。曖昧な喪失。長期にわたって不確実な状態に。精神的に疲弊して家族内の対立も。悲嘆を経験しているにも関わらず助けを求めない。遺族ではない恋人や友人、同性愛のパートナー、患者仲間。強い悲嘆を。個人との関係性が理解されず充分なサポートが得られない。医療職や看護職。自責の念や無力感を。支援の専門家であってもケアされるべき悲嘆を抱えることが。公認されない悲嘆。流産や死産。父や母は衝撃を。しかし回りの人に理解されない。ペットの死も深刻な悲嘆体験を。最近ではペットを家族同様の大切な存在にしている人は少なくない。ペットロス症候群。喪に服す。服喪。喪を表す行動。喪服を着る、半期を掲げる。文化や時代により異なる。喪服は時代により白いことも。日本では帰服。四十九日。忌明けまでの期間。帰服の期間。神社への参拝などは控えるべきであるとされる。慣習とは別に勤務先や学校を休んで良いとする忌引休暇。終われば普段どおりの生活に戻らなければならない。引きずらず社会の一員として振る舞うことを期待されている。
重大な喪失の後のプロセス。悲嘆の。段階モデル。ボールディ。無感覚と無心、死後と探究、混乱と絶望、再建。4段階モデル。段階移送モデル。プロセスの一般的目安。普遍的なことと決めつけ選択の余地がないように。課題モデル。一連の課題の達成。死別した人自身による。オーデン。4つの課題。死んでしまい戻ってくることが無いという事実に直面し死を受容。情緒的にも。ときには多くの時間を要する。感情を押し殺したりしないことが重要。亡き人が以前に果たしていた役割を誰かが。変化した自己意識や世界観の問い直しも。亡き人との関係を断ち切るのではなく新たなつながりを見出す。大切にしつつ新たな人類の。二重過程モデル。前提として死別への対処は日常生活の一部。残された人は死の結果として生じる変化にも対応。死そのものへの対象。喪失志向コーピング、回復志向コーピング。生活に向き合う。揺らぎ、喪失志向コーピングと回復志向コーピングは同時並行で。重心が移るとされる。グリーフワーク。概念自体に批判的な。作業という概念は的を得ている。相応の努力と苦悩がなければ達成されない。精神的エネルギーを大量に消費する人生の大仕事。
絵本を紹介。「忘れられない贈り物」。三石琴乃。スーザン・バーレイ。評論社。アナグマは皆から頼りにされている。助けてあげる。大変年を取っていて物知り。死ぬことを恐れていない。肉体が無くても心は残る。後に残していく友達のことが気がかり。長いトンネルの外に行ってしまっても。後一度だけでも走れたらと思うが無理。それでも見ると幸せ。晩に手紙を。不思議な素晴らしい夢を。アナグマは走っている。長いトンネルの中を。どんどん速く走れる。地面から浮き上がったような。すっかり自由になったと感じた。朝、友達は心配して集まった。おはようと言って来てくれない。アナグマが死んでしまった。手紙をキツネが読む。長いトンネルの向こうに行くよ、さようなら。モグラはアナグマのことばかりを。毛布をぐっしょりと。その夜に雪が、冬が始まった。雪は地上をすっかり覆う。心の中の悲しみを覆い隠せない。アナグマの死で皆が途方にくれていた。悲しまないようにするのは難しいことだった。春が来てアナグマの思い出を語り合う。モグラが切り抜きを。アナグマが教えてくれた。しっかりと手を繋いたように。カエルはスケートが得意。アナグマが滑れるようになるまでそばに。キツネはネクタイの仕方を教えてもらった。色んな結び方が出来るように。ウサギの奥さんのうまい料理も初めはアナグマに教えてもらった。焼きたてのしょうがパン。誰にも何かしらアナグマの思い出が。一人ひとりに宝物という知恵や工夫が。助け合うことが出来る。豊かさで悲しさも消えた。楽しい思い出を話すことが出来るように。春の日にモグラはカエルとかけっこした丘に。そばでアナグマが聞いているように。きっとアナグマに聞こえたに違いない。
死別体験では大事な人を失う。しかし沢山の贈り物を残している。プレゼントしたものだけでなく、思い出や教えてもらったことなど全てのことを含む。時間のある時に大切な人と過ごしたことを振り返る。一方でじっくり考えるうちに意外なことに気がつくことも。形のあるものだけでなく形のないものも。今の考え方や行動に影響を。過去の喪失体験を意識的に振り返ることは、今をよりよく生きることに通じる。振り返ることが難しい場合は無理はしないでぼちぼちと。喪失と悲嘆は特別な体験ではない。これまでの経験と照らし合わせながら。

 

死生学のフィールド (放送大学教材)

死生学のフィールド (放送大学教材)

  • 作者:石丸 昌彦,山崎 浩司
  • 出版社/メーカー: 放送大学教育振興会
  • 発売日: 2018/03/01
  • メディア: 単行本