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ここからは、5つ目のテーマである養育費についてお話しします。民法877条1項は、「直系血族および兄弟姉妹は互いに扶養の義務がある」と規定しています。夫婦間に未成熟子、つまり経済的に自立できていない子がいる場合、離婚後も親は未成熟子に対する扶養義務を負います。この扶養義務は、親権や監護権を父母のいずれが有しているかとは関係がありません。一般的には、子を養育する親が、養育していない親に対して、養育に関する費用、つまり養育費の分担を請求します。父母が別居中の場合は、分担される婚姻費用の中に養育費が含まれていますので、養育費として単独で取り上げられるのは離婚後の場面です。養育費は離婚に付随するため、夫婦の間で協議が整わない場合は、家庭裁判所に申し立てられた離婚調停や離婚裁判の手続きの中で解決することになります。協議離婚では、離婚時に養育費を取り決めていないケースが多いのが実情です。養育費の取り決めは離婚時に限定されるものではありませんので、養育費の取り決めをせずに離婚した場合でも、子を養育する親は、適切なタイミングで家庭裁判所に養育費請求調停を申し立てることができます。
養育費の算定については、婚姻費用の場合と同様に、「標準算定方式・算定表 令和元年版」が公表されています。未成熟子の有無、年齢および人数により算定表が複数用意されており、該当する算定表で養育費を支払う義務を負う非監護親、つまり義務者の年収の線と、支払いを受ける監護親、つまり権利者の年収の線が交差する点に記載されている金額が養育費の標準金額となります。この算定表は、夫婦の間に0歳から14歳の子が1人いるときに使用するものです。
例えば、非監護親である父が自営業で年収600万円、監護親である母が会社員で年収300万円、夫婦の間に10歳の子が1人いると仮定します。この場合、父が義務者で母が権利者となります。まず、左側の義務者の年収欄の「自営」で600万円に近い数字を見つけ、ここから右に向かって線を引きます。次に、下側の権利者の年収欄の「給与」でちょうど300万円のところから上に向かって線を引きます。両方の線が交差する点は、6万円から8万円の帯の半分より上にありますので、養育費の標準金額は月額7万円から7万5000円程度となります。
ところで、従来の民法では20歳が成年であったため、これまでの実務では、養育費の支払い終期を子が20歳になる月までと定めるケースが多くありました。これは、未成年者は未成熟子であるという考え方に基づいています。ところが、民法改正により、令和4年(2022年)4月1日から成年年齢が18歳に引き下げられました。未成年者は未成熟子であるという考え方に従えば、養育費の支払い終期は子が18歳になる月までとなりそうです。しかしながら、養育費は子が未成熟で経済的自立が期待できない期間に支払われるものですので、子が18歳で成年になったとしても、学生の身分であれば経済的に自立できていないと言えます。このため、非監護親は養育費の支払い義務を負うことになります。父母の最終学歴や進学への意向などから進学見込みを立て、次の3つから養育費の支払い終期を選択するケースが多くなると考えられます。すなわち、高校卒業後に就職することが見込まれる場合は子が18歳に達した後の最初の3月まで、短大や専門学校卒業後に就職することが見込まれる場合は子が20歳に達した後の最初の3月まで、大学卒業後に就職することが見込まれる場合は子が22歳に達した後の最初の3月までのいずれかに決定することが一般的です。