ーーーー講義録始めーーーー
防衛機制:無意識的な心の守り
私たちの心は、日々生きていく中で、知らず知らずのうちにショックから自分を守ろうと働くことがあります。
**防衛機制(defense mechanisms)**とは、不快な状況や満たされない欲求・衝動に直面した際、無意識的に自己を守るために働く心の過程を指します。
防衛機制には多くの種類がありますが、衝撃的な出来事に対する反応に関連する代表的なものを以下に挙げます。
主な防衛機制の種類
-
抑圧:不快な出来事や感情を意識にのぼらせず、心の奥に押し込めようとする
-
知性化:抽象的・理知的に状況を分析し、感情から距離を取ろうとする
-
反動形成:本来の感情とは逆の態度を取ることで、自分の内面を守ろうとする
-
否認:辛い出来事の現実を認めず、無意識に事実を歪めてしまう
防衛機制には、一時的に適応的に働くものもあれば、長期的には不適応を招く場合もあります。
防衛機制の具体例
例えば、誰かの意地悪な言動に強く傷つけられたとします。
-
知性化の場合
「この人がこうした言動をする背景には、社会構造に問題がある」などと分析し、批判的に捉えることで、自分のショックを直視しなくても済むようにします。 -
反動形成の場合
本当は怒りや憎しみを抱いている相手を、逆に「素晴らしい人だ」と褒め称え、自分の中のネガティブな感情を打ち消そうとします。 -
否認の場合
「そんなことは言われていない」と出来事自体をなかったことにし、心を守ろうとします。外から見れば現実を歪めた「嘘」のように見えるかもしれませんが、本人にとっては無意識的な自己防衛のプロセスです。
ストレス・コーピング:意識的な対処方略
無意識的な防衛機制とは別に、人は衝撃をもたらす状況に直面した際に、意識的な対処方略を取ることもあります。これを**ストレス・コーピング(coping strategies)**と呼びます。
主なストレス・コーピングの種類
-
認知的再評価(肯定的な解釈):状況の悪い面だけでなく良い面を見出す
-
感情表出(カタルシス):他者に気持ちを打ち明けることで心を軽くする
-
気晴らし:気分転換によって感情の負担を和らげる
-
計画立案:解決に向けて行動計画を立て、前向きに取り組む
心のレジリエンスの基盤
このように、私たちは衝撃的な出来事に直面するとストレス反応を示しますが、同時にそれを和らげようとする働きを、**無意識的(防衛機制)にも意識的(コーピング)**にも発動させています。
これらの働きが相まって、レジリエンス・プロセスにおける**V字モデル左側の「急激に崩れない力」**を形成し、心の安定を守る基盤となるのです。
統合図を作成しました。
-
左(青枠)防衛機制(無意識的)
-
抑圧、知性化、反動形成、否認
-
-
右(緑枠)ストレス・コーピング(意識的)
-
認知的再評価、感情表出、気晴らし、計画立案
-
-
中央(灰枠)
-
両者が相まってレジリエンスのV字モデル左側の「崩れない力」を形成
-