ーーーー講義録始めーーーー
ストレスフルな出来事に直面したとき、人々の心は大きな衝撃を受けながらも、少しずつ前に進もうとする力を持っています。そうした心の適応や回復の現象、すなわちレジリエンスがどのようなプロセスで進むのかについて、様々な状況に照らし合わせて理解していただきたいと思います。
心のレジリエンスとは
心のレジリエンスとは、ストレスフルな出来事や困難に直面して衝撃を受けた後に、そこから回復し適応していく現象を示す概念です。私たちの心は、ストレスやショックを受けると、まるで何かに押しつぶされたように機能しなくなったり、壊れてしまったように感じることがあります。
例えば、ショックな出来事に直面したときに、何も考えられなくなったり、いつも通りの生活が送れなくなった経験がある人もいるでしょう。しかし、押しつぶされたまま永久に止まるわけではなく、時間の経過とともに苦しさから解放される方向へ少しずつ向かっていくのです。
物理的レジリエンスから心のレジリエンスへ
「レジリエンス」という言葉はもともと物理学の領域で、外力によって変形しても元に戻る性質を意味しました。例えば弾性限界やフックの法則に基づき、圧力をかけられて押しつぶされた物体が元に戻る現象を指します。
その物理的なレジリエンスの概念を、心がストレスにさらされながらも適応や回復を示す現象に比喩として当てはめて、心理学においても「レジリエンス」という言葉が使われるようになりました。心理学的レジリエンスの研究は1970年代のGarmezyや1980年代のRutterらによって本格化し、現在では精神医学や教育学、社会学など幅広い領域で用いられています。
ただし、心の中で起こる変化は目に見える物理的現象とは異なり、質量や運動として観察できるものではありません。外部からは回復の進行を直接確認することはできず、本人自身もそのプロセスを自覚できない場合が多々あります。
物体のレジリエンスの例
心のレジリエンスを理解する前段階として、物体におけるレジリエンスの例を思い浮かべましょう。
例えば、低反発マットレスを考えてみてください。手で強く押しつけるとマットレスはへこみますが、手を離すとゆっくりと元の形に戻っていきます。
また、空気の入ったボールを水の中に沈めると、押さえている手を離した瞬間に、ボールは勢いよく水面へ浮かび上がります。
さらに、起き上がりこぼしの玩具を倒すと、ぐるぐる揺れながら少しずつ元の位置に戻ります。
このように、物体のレジリエンスには「力を加えれば一定の変形が生じ、外力が除かれれば元に戻る」という予測可能な法則があります。
心のレジリエンスの特徴
では、私たちの心は押しつぶされた状態からどのように回復、あるいは変化していくのでしょうか。
結論から言えば、心のレジリエンスのプロセスは物体のそれとは異なり、人によっても状況によっても大きく異なります。物理的な法則のようにすべての人に当てはまる共通の回復パターンは存在しません。
同じ生き物である植物を例に考えてみると理解しやすいでしょう。道端に咲いた雑草が瓦礫で押しつぶされたとします。しばらく潰れたままになる花もあれば、瓦礫の下で緑を保つものもありますし、瓦礫の隙間から光を求めて以前よりも大きく成長するものもあります。このように心のレジリエンスも多様であり、人それぞれのプロセスをたどるのです。

