ーーーー講義録始めーーーー
自己理解と他者の重要性
先に述べたように、レジリエンスを高めていくには、自分の中にある資源や強みに気づいていく自己理解が重要です。
しかしそれと同時に、他者の存在がレジリエンスの発揮や回復を支える上で大きな役割を果たします。
本講では、他者が果たす役割を4つの機能に整理して考えていきます。
1. サポート資源(社会的支援資源)
内容
ショックや喪失、ストレス状況にあるとき、他者は**情緒的支援(emotional support)や道具的支援(instrumental support)**を提供する存在となります。
これらは個人のレジリエンスを支える基盤的要因とされます(Cohen & Wills, 1985)。
具体例
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困難な状況での実際的な援助(例:生活面の支え、手助け)
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感情的な共感・傾聴による安心感の提供
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問題解決に向けて一緒に考えてくれる人の存在
理論的補足
このような支援ネットワークの存在は、ストレス反応の軽減や回復力の促進に直結するとされ、社会心理学的研究でも一貫して保護因子として位置づけられています。
2. 気づきを与えてくれる他者
レジリエンスが発揮できない状態
レジリエンスがうまく発揮されない時は、個人が限られた対処法に固執したり、視野が狭くなったりしていることがあります。
他者の役割
異なる価値観や生き方を持つ他者に出会うことで、自分の固定化された思考や行動パターンに変化が生まれます。
これにより、ストレス状況への新たな対処方法や柔軟な思考を獲得できるのです。
具体例
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多様な対処法の発見
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新しい視点の獲得
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固定観念からの解放
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柔軟な思考への移行
理論的補足
これは社会的比較理論(Festinger, 1954)やナラティブ・アプローチの観点からも説明可能であり、他者の存在が自己の意味づけの拡張を促す機能を果たします。
3. 承認してくれる他者
内容
自分の内的資源や努力を認めてくれる他者の存在は、自己効力感(self-efficacy)や自己肯定感を高め、回復過程を支えます。
具体例
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ポジティブなフィードバックをもらう
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努力や成長の承認を受ける
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自分の存在そのものを肯定される
補足
こうした「承認的他者(affirming other)」は、特に思春期・青年期のレジリエンス形成において重要であることが多くの研究で報告されています(Masten, 2014; 斎藤, 2020)。
4. 互恵性(相互に助け合う関係)
一般的なイメージの転換
他者というと「支援を受ける存在」というイメージが先行しがちですが、他者は同時に「自分が支援する対象」にもなり得ます。
互恵性の力
相手と助け合う関係を通して、
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自分の力が引き出される
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自分の中にある対処力を再確認できる
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他者からの信頼によって自己信頼が育つ
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自己効力感が高まる
具体例
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誰かを支える経験
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ボランティアやピアサポート活動への参加
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役割意識を持つことで得られる貢献感
理論的背景
このプロセスは、**社会的互恵性(reciprocity)**と呼ばれ、相互支援関係を通して自己効力感と社会的結束を強化する働きを持つとされています。
他者の力を活かしたレジリエンス研究
研究内容
心理教育的介入として「相手の肯定的側面を評価し、その人の物語を聴く」ワークが実施されました(斎藤・2020, 日本心理学会)。
結果
この介入により、予想通りレジリエンスと自尊感情の向上が見られました。
さらに注目すべき点として、聴き手側にも肯定的変化が確認されました。
他者を肯定的に評価する経験が、自分自身の受容感や他者信頼を高めるという結果が示唆されました。
互恵性の重要性
私たちは、他者を支え、肯定する経験を通して、自分自身の価値や生きる力を再発見することができます。
このことは、レジリエンスにおける他者の役割が、単なる「支援を受ける関係」ではなく、相互的・双方向的な関係性の中で機能していることを示しています。
