【要約】
SOC、sense of coherence(首尾一貫感覚)は、アントノフスキーの健康生成モデルにおける中核的な概念です。単なる「ストレスに強い能力」ではなく、人生や生活を全般的に理解可能・処理可能・有意味なものとして捉える包括的な人生志向を意味します。
SOCは、comprehensibility(理解可能感・把握可能感)、manageability(処理可能感)、meaningfulness(有意味感)の3要素からなります。理解可能感は出来事を秩序立てて理解できるという感覚、処理可能感は要求に対応するための資源を利用できるという感覚、有意味感はその問題にエネルギーを投入して向き合う価値があると感じられることです。
強いSOCは、利用可能な資源を見いだして動員し、ストレッサーによる緊張への対処を助け、健康―健康破綻の連続体における健康側への移動を促すと考えられます。日本では、その働きを強調して「ストレス対処力SOC」「健康生成力SOC」と呼ぶ場合もあります。
現在ではSOCを生涯にわたる発達・学習過程として捉える研究も進み、SOCを強める介入の可能性も検討されていますが、長期的な効果についてはなお研究が必要です。
ーーーー講義録始めーーーー
SOCとは何か――アントノフスキーによる定義
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
(今回学ぶSOCと健康生成論的アプローチ)
前回はこの sense of coherence; SOC(首尾一貫感覚) とは何なのか、具体的なところまでは説明しませんでした。今回はこのSOCに関心を移して、SOCとは何なのか、その形成・発達はどのようなものであるのか、さらにSOCを支えたり強めたりする可能性のある条件や介入について説明していきたいと思います。Antonovskyは当初、SOCは若年期から発達し、成人後には比較的安定すると考えていましたが、これは理論的な仮説として提示されたものでした。現在では、SOCの発達を生涯にわたる学習過程として捉える研究もあり、介入によって変化する可能性が検討されています。ただし、どのような方法によってSOCを長期的かつ確実に高められるのかについては、まだ十分に解明されているわけではありません。また、salutogenesis(健康生成論) の提唱からSOC概念の形成・提唱へと至った考え方を踏まえた、新たな健康に関連する問題解決の方法である salutogenic approach(健康生成論的アプローチ) と、その可能性についても説明をしていきます。
(健康生成モデルにおけるSOCの位置づけ)
健康生成モデルの中核にある重要な健康生成要因の一つがSOCです。SOCは、単独でストレッサーへの対処を必ず成功させる「能力」というよりも、ストレッサーをどのように受け止め、利用できる資源を見いだし、それらを動員して緊張をうまく処理していくかを支える包括的な人生志向です。強いSOCは、そのような過程を通して、health ease/dis-ease continuum(健康―健康破綻の連続体) において健康側への移動を促す重要な要因になると考えられていました。そのことを踏まえて、日本ではSOCのことを「ストレス対処力SOC」と、ストレス対処力という用語を冠して称する場合もあります。また、健康生成モデルにおける中核的な役割を前面に出して、「健康生成力SOC」と称する例もあります。実際、日本では『ストレス対処力SOC―健康を生成し健康に生きる力とその応用』や『健康生成力SOCと人生・社会』といった専門書も刊行されています。ただし、これらはSOCの働きを分かりやすく示す日本語での説明的な呼称であり、sense of coherence そのものは一般に「首尾一貫感覚」と訳されています。
(アントノフスキーによるSOCの定義)
それでは、SOCとは一体何なのか、その実態について見ていくことにしましょう。まず、第2回でも紹介したAntonovskyが述べたSOCの定義を紹介します。Antonovskyは1987年の Unraveling the Mystery of Health(『健康の謎を解く』に相当する題意) において、SOCを3つの構成要素からなる global orientation(包括的な人生志向) として定義しています。読み上げますと、
(SOCとは「包括的な人生志向」である)
「その人に広く行き渡った、持続的ではあるものの動的な確信の感覚によって表される、人生や生活全般についての包括的な志向性のことである。」このように理解するとよいでしょう。ここでいう global orientation(包括的な志向性) は「世界規模」という意味ではなく、特定の一場面だけに限られず、その人が人生や生活を全般的にどのように捉えているのかという比較的広い志向性を意味しています。Antonovsky自身もSOCを、特定の状況への一時的な反応というより、全般的で深い人生志向として位置づけています。
(SOCを構成する3つの要素)
さらにSOCは、自分の内外から生じる環境刺激が、秩序づけられ、ある程度予測でき、説明可能なものとして理解できるという確信を表す comprehensibility(理解可能感・把握可能感)、その刺激がもたらす要求に対応するために必要な資源が自分には利用可能であるという確信を表す manageability(処理可能感)、そして、そうした要求には自分がエネルギーを投入して関わるだけの意味があり、単なる重荷としてではなく、取り組む価値のある課題として向き合えるという確信を表す meaningfulness(有意味感) の3つの構成要素からなる、とされています。ここで処理可能感にいう「利用可能な資源」には、自分自身が直接持っている資源だけではなく、自分が信頼し、正当に頼ることのできる他者などが持つ資源も含まれています。
(理解可能感・処理可能感・有意味感)
この定義からは、3つの構成要素からSOCが成り立っているということがわかります。概念というのは、ここでは直接目で見ることのできない心理的な特性や感覚などを、理論的に捉えるためのまとまりを意味します。ただ、その3つが実際にはどのような感覚を指しているのか、定義を読んだだけでは、にわかに理解することは難しいかもしれません。専門的に整理すると、comprehensibility(理解可能感・把握可能感) は主として認知的な側面、manageability(処理可能感) は対処に必要な資源を利用できるという道具的・行動的な側面、meaningfulness(有意味感) はその問題に取り組もうと思える動機づけの側面に対応しています。
(日本のSOC研究における分かりやすい説明)
この定義を、有信堂高文社から出版されている『思春期のストレス対処力SOC―親子・追跡調査と提言』という本の中では、より身近な言葉を使って理解できるように説明しています。この本は山崎喜比古氏と戸ヶ里泰典氏の編著として2011年に刊行されたものです。したがって、特定の説明を山崎氏個人のものとするには、その箇所の執筆者を本文で確認する必要があります。ここでは、同書に示された説明として紹介することにしましょう。読み上げますと、
