一口に「徳」と言っても、少なくても中国古典やギリシア哲学では意味内容が違う。同じ単語を使っているので日本ではまぜこぜになってしまっているが。アランは以下のように書く。「徳というのは、陸上競技なのだ。ランナーは走ることに酔わないように、ボクサーは殴ることに酔わないようにしなければならない。」現代で言うと、ランナーズ・ハイにならないようにすることだろうか。確かにマラソンでは走ること自体に酔ってしまうと、自分の身体の状態も分からない。ましてや競争相手の心理なんて知るすべもない。Qちゃんこと高橋尚子選手は、その辺りのことが理解できていたからこそ数々のレースに勝利したのであろう。ただ彼女のレースで最も凄まじいのは、98年のバンコクでのアジア大会のマラソンである。ビデオがあればぜひご覧いただきたいのだが、当時のバンコクではあまりに暑くて陽炎が揺れていた。そんな中で自己ベストを3分以上上げて自身の持つ日本記録を3分以上更新したのだから恐ろしいと言う他に表現のしようがない。