F-nameのブログ

はてなダイアリーから移行し、更に独自ドメイン化しました。

大阪市の博物館価値論の実践(博物館経営論第1回)♯放送大学講義録

-----講義録始め-----

 

次に、我が国における博物館の価値論の実践を紹介します。印刷教材の第5章でも説明しているように、大阪市は大阪市博物館機構という地方独立行政法人を2019年に設立しました。この機構は発足当初、大阪市立美術館、大阪市立東洋陶磁美術館、大阪歴史博物館、大阪市立自然史博物館、大阪市立科学館の五館を経営し、その後2022年2月に開館した大阪中之島美術館を含め、2022年現在は6館を経営しています。

同機構を設立する際に、これらの博物館群が目指すべき姿として、2016年に大阪市ミュージアムビジョンを策定しました。このビジョンは、大阪市の博物館群に期待する価値が示されています。このビジョン全体のキーワードとして、都市のコアとしてのミュージアムを掲げ、以下の3つの目標を記しています。1つ目が「大阪の地を開く」、2つ目が「大阪を元気に」、3つ目が「学びと活動の拠点へ」となっています。

それぞれがどう寄与し、貢献するのかは、印刷教材の方で詳しくご覧ください。ホールディンの考え方を用いると、1つ目の「大阪の地を開く」は、各博物館のコンテンツを活用して、大阪市のブランド価値の向上への貢献という手段的価値の中の社会的価値を目指しています。

2つ目の「大阪を元気に」では、各博物館に国内外の観光客を呼び込み、関連する事業パートナーとともにその仕掛けをつくり、経済を活発にして都市の活性化を図るという手段的価値の中の経済的価値を目的としています。

最後の「学びと活動の拠点へ」は、博物館利用者一人ひとりの学びや感動を重視しているので、本質的価値に深く関わっています。加えて、市民力の向上という社会的価値も強く意識していることがわかります。なお、大阪市ミュージアムビジョンでは具体的に触れていませんが、共同体的価値についても個性的な6館がそれぞれ創出していると考えられます。

例えば、大阪市立自然史博物館であれば、生物多様性を重視した環境への配慮の大切さといったメッセージがそれに該当するでしょう。