ーーーー講義録始めーーーー
それでは、筋細胞内でインスリンがどのように作用し、インスリン抵抗性が生じるのか、その仕組みを見ていきましょう。
図9 筋細胞におけるインスリンシグナル伝達とGLUT4輸送の模式図
[血中インスリン]
↓ 結合
[インスリン受容体(IR)]
↓ 活性化
[IRS-1 → PI3K → Akt](シグナルカスケード)
↓
[GLUT4輸送小胞の細胞膜移動]
↓
[ブドウ糖取り込み増加]
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インスリン受容体結合
食後、膵β細胞から分泌されたインスリンが血流に乗って筋細胞表面の**インスリン受容体(IR:Insulin Receptor)**に結合します。 -
シグナルカスケードの開始
受容体のチロシンキナーゼ活性が亢進し、受容体基質タンパク質IRS-1がリン酸化されます。
これがPI3K(ホスファチジルイノシトール3-キナーゼ) → **Akt(プロテインキナーゼB)**へとシグナルを伝え、細胞内シグナルカスケードが駆動します。 -
GLUT4輸送小胞の動員
Aktの活性化により、細胞内に蓄えられたGLUT4輸送小胞が細胞膜へ移動・融合し、ブドウ糖トランスポーターGLUT4が細胞膜上に発現。
これにより血中のブドウ糖が筋細胞内へ効率よく取り込まれ、血糖値が低下します。
インスリン抵抗性を引き起こすDAG–PKC経路
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肥満や異所性脂肪蓄積に伴い、筋細胞内の中性脂肪(トリグリセリド)から分解された**ジアシルグリセロール(DAG)**が増加。
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DAGはPKC(プロテインキナーゼC)を活性化し、IRS-1 のリン酸化部位をセリンリン酸化することで、上流のインスリンシグナル伝達を遮断してしまいます。
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その結果、GLUT4の細胞膜移動が抑制され、ブドウ糖取り込みが低下 → インスリン抵抗性が成立します。
このように、インスリン受容体からGLUT4動員に至る流れ(“信号の川”)を、DAG–PKCが上流で堰き止めることで、肥満者の筋肉ではインスリンが効きにくい状態が生じるわけです。