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皮下脂肪過剰とリピッドスピルオーバー(健康長寿のためのスポートロジー第5回)#放送大学講義録

ーーーー講義録始めーーーー

 

東アジア人は、比較的軽度の体重増加でもリピッドスピルオーバー(脂肪組織から遊離脂肪酸が漏れ出る現象)を起こしやすく、メタボリックシンドロームを発症しやすいと考えられています。そこで、健康な成人において、どの程度リピッドスピルオーバーが起きるか調査した研究をご紹介します。


対象と方法

  • 対象:健康診断で異常が一切認められなかった成人50名

  • 評価項目

    • 脂肪組織インスリン感受性(Adipose Tissue Insulin Sensitivity, ATIS)を指標に、リピッドスピルオーバーの程度を判定

    • 体組成(皮下脂肪量、内臓脂肪面積)

    • 最大酸素摂取量(VO₂max)など体力測定

被験者をATISの高い群(スピルオーバー起こりにくい群)と低い群(起こりやすい群)に分け、比較を行いました。


主な結果

指標 スピルオーバー起こりにくい群 スピルオーバー起こりやすい群
皮下脂肪量 低め 高め
内臓脂肪面積 両群で大きな差なし 両群で大きな差なし
VO₂max(体力指標) 高め 低め
  • 内臓脂肪には両群で有意差は認められず、皮下脂肪が多いほどリピッドスピルオーバーが起きやすいことが分かりました。

  • **体力(VO₂max)**が低い群でもスピルオーバーが起きやすく、生活習慣の重要性を示唆します。


考察

  1. 皮下脂肪の蓄積限界
    皮下脂肪組織の容量には個人差があり、限界を超えると遊離脂肪酸が血流中に漏出しやすくなる。

  2. 体力の影響
    有酸素能力の低下は脂質代謝やインスリン感受性にも影響を与え、リピッドスピルオーバーを促進する可能性がある。

  3. 東アジア人の特徴
    皮下脂肪組織の拡張能が欧米人より低いため、より少ない体重増加でスピルオーバーが生じやすいと考えられる。


この研究は、メタボリックシンドローム予防のためには「体重管理」に加え、「皮下脂肪の過剰蓄積を防ぐこと」「体力向上による脂質代謝改善」が重要であることを示しています。