ーーーー講義録始めーーーー
東アジア人は、比較的軽度の体重増加でもリピッドスピルオーバー(脂肪組織から遊離脂肪酸が漏れ出る現象)を起こしやすく、メタボリックシンドロームを発症しやすいと考えられています。そこで、健康な成人において、どの程度リピッドスピルオーバーが起きるか調査した研究をご紹介します。
対象と方法
-
対象:健康診断で異常が一切認められなかった成人50名
-
評価項目:
-
脂肪組織インスリン感受性(Adipose Tissue Insulin Sensitivity, ATIS)を指標に、リピッドスピルオーバーの程度を判定
-
体組成(皮下脂肪量、内臓脂肪面積)
-
最大酸素摂取量(VO₂max)など体力測定
-
被験者をATISの高い群(スピルオーバー起こりにくい群)と低い群(起こりやすい群)に分け、比較を行いました。
主な結果
指標 | スピルオーバー起こりにくい群 | スピルオーバー起こりやすい群 |
---|---|---|
皮下脂肪量 | 低め | 高め |
内臓脂肪面積 | 両群で大きな差なし | 両群で大きな差なし |
VO₂max(体力指標) | 高め | 低め |
-
内臓脂肪には両群で有意差は認められず、皮下脂肪が多いほどリピッドスピルオーバーが起きやすいことが分かりました。
-
**体力(VO₂max)**が低い群でもスピルオーバーが起きやすく、生活習慣の重要性を示唆します。
考察
-
皮下脂肪の蓄積限界
皮下脂肪組織の容量には個人差があり、限界を超えると遊離脂肪酸が血流中に漏出しやすくなる。 -
体力の影響
有酸素能力の低下は脂質代謝やインスリン感受性にも影響を与え、リピッドスピルオーバーを促進する可能性がある。 -
東アジア人の特徴
皮下脂肪組織の拡張能が欧米人より低いため、より少ない体重増加でスピルオーバーが生じやすいと考えられる。
この研究は、メタボリックシンドローム予防のためには「体重管理」に加え、「皮下脂肪の過剰蓄積を防ぐこと」「体力向上による脂質代謝改善」が重要であることを示しています。