ーーーー講義録始めーーーー
このように、健康診断で異常がない「健康成人」においても、わずかなリピッドスピルオーバー(脂肪組織からのFFA漏出)が認められると、次のような変化が生じることが分かりました。
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肝脂肪の蓄積と筋肉のインスリン感受性低下
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リピッドスピルオーバー陽性群では、肝臓に軽度の脂肪(Hepatic Fat Fraction ≈ 5–10%)が蓄積し、骨格筋におけるインスリン感受性も有意に低下していました。
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血中脂質プロファイルの悪化
指標 スピルオーバー陰性群 スピルオーバー陽性群 中性脂肪(Trg) 約 90 mg/dL 約 120 mg/dL HDL-コレステロール(善玉) 約 63 mg/dL 約 55 mg/dL -
スピルオーバー陽性群は、基準値(Trg < 150 mg/dL)に近づきやすく、HDL-Cも低下傾向にありました。
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体脂肪率と体力の影響
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体脂肪率が約20%を超えるとスピルオーバーが起こりやすく、
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VO₂max(最大酸素摂取量)が低い群でも同様にリピッドスピルオーバーが亢進しました。
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有酸素運動による改善
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別の研究では、健康成人が3か月間の有酸素運動プログラム(週4 回、各45 分)を行うと、FFA漏出が有意に減少し、脂質代謝・インスリン感受性が改善したことが報告されています。
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まとめ
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わずかな体脂肪増加でも、東アジア人は皮下脂肪容量の限界を超えやすく、少量のFFA漏出(リピッドスピルオーバー)を生じる。
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それに伴い、肝脂肪蓄積・筋肉のインスリン感受性低下・中性脂肪増加/HDL低下が起こる。
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体脂肪率20%未満の維持と有酸素運動による脂質代謝改善が、リピッドスピルオーバー抑制とメタボ予防に有効と考えられます。