ーーーー講義録始めーーーー
博物館教育の国際的動向と社会的役割
15回にわたって博物館利用の教育的意義について検討してきたわけですが、今聞いてくださっている皆さんは、これからの博物館はどうあるべきだと思いますか?
印刷教材第15章第1節に触れておきましょう。今日の社会が直面する課題は、地球環境問題、AIや原子力などの科学技術のコントロール、自然災害、人為的災害、戦争やテロ、人権問題など、数多く存在します。それらと向き合い、社会の進むべき方向性を探るため、博物館が果たすべき役割は、ますます重要になっている、という趣旨が印刷教材でも述べられています。
2019年のICOM(国際博物館会議:International Council of Museums)の京都大会(ICOM Kyoto 2019:第25回ICOM総会)においても、博物館が社会課題とどのように向き合うのかという観点から、多様な実践報告や議論が行われました。一方で、博物館の定義改訂をめぐっては意見の対立も大きく、京都で予定されていた投票が延期されたことも報じられています。こうした経緯そのものが、博物館の社会的役割の位置づけが国際的議論の中心的テーマになっていることを示すものだと言えるでしょう。
ICOMの博物館の定義改訂の過程で、博物館の教育的意義は一層重視されてきましたが、博物館の位置づけを表す適切な用語についていろいろな意見が出されました。その過程で「教育」という言葉は、博物館から来館者への一方向性を想定しがちな一方、例えば、来館者の活動に焦点を当てる「学習」や、博物館を来館者と収蔵資料との「媒介者」「仲介者」としての機関と位置づける「媒介」「仲介」などが挙がりました。なお、2022年に採択されたICOMの新定義では、博物館がコミュニティの参加とともに活動し、教育・楽しみ・省察・知識共有のための多様な体験を提供することが明記されており、従来の一方向的な理解を超える含意が、定義の文言としても強く意識されている点が確認できます。
こうした議論の根底には、博物館が利用者に既定の知識を伝達するという教育観の否定と、博物館と利用者との関係は民主的であるべきだという主張があります。
