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ピアジェの認知発達4段階とPASS理論を徹底解説――形式的操作期からDN-CASによる認知評価まで #放送大学講義録(発達心理学特論第3回その2)

【要約】

 

ピアジェの認知発達論では、思考は感覚運動期、前操作期、具体的操作期、形式的操作期へと質的に変化する。ただし、各段階の年齢は目安であり、課題、経験、教育、文化による個人差がある。前操作期には表象や象徴遊びが発達し、具体的操作期には系列化、分類、保存などが可能になる。形式的操作期には、抽象的思考、組合せ思考、仮説演繹的推論、命題操作が発達するが、すべての人があらゆる領域で同じ水準に達するわけではない。

PASS理論は、ルリアの三つの機能単位を基礎に、知能をPlanning、Attention、Simultaneous processing、Successive processingという四つの認知過程から捉える。日本版DN-CASは5歳0か月から17歳11か月を対象とし、四つのPASS尺度と全検査尺度を、平均100、標準偏差15の標準得点で示す。結果は得点だけで判断せず、プロフィール、測定誤差、行動観察、学習・生活状況などと併せて解釈し、子どもの認知的特徴に応じた支援へつなげる必要がある。

 

ーーーー講義録始めーーーー

 

ピアジェの発達段階論とPASS理論

(ピアジェの発達段階論の捉え方)ピアジェの知能の発達段階について、中垣啓は、ピアジェが示した段階設定の基準を整理することにより、統一的な段階区分が可能であると述べ、発達段階を説明しています。一方、ピアジェの発達段階として一般に広く普及しているのは、感覚運動期、前操作期、具体的操作期、形式的操作期という四段階区分です。ただし、ピアジェ自身の著作では、研究対象となる課題や認知領域によって、さらに細かな下位段階が示されることがあります。そのため、四段階区分はピアジェの複雑な発達理論を理解しやすくまとめた基本的な枠組みであり、それだけが唯一の区分方法であるというわけではありません。

(段階を成立させる基準)ピアジェのいう発達段階は、単に年齢によって子どもを分けるものではありません。ある段階で成立した認知の構造が、それ以前の構造を取り込みながら、より統合された新しい構造へと組み替えられることが重視されます。また、段階の移行には一定の順序があり、順序を飛び越えて進むものではないと考えられました。ただし、各段階に到達する年齢には個人差があり、課題の内容、教育経験、文化的環境などによっても、実際に示される成績は異なります。

(一般的な四段階区分と中垣の整理)一般的な四段階区分では、感覚運動期、前操作期、具体的操作期、形式的操作期をそれぞれ一つの段階として数えます。一方、中垣は、ピアジェが重視した段階設定の基準に沿って、これらをさらに大きな発達的まとまりとして整理しています。したがって、以下では、一般的な四段階区分を基本としながら、必要に応じて、中垣が示したより大きな段階区分との関係にも触れていきます。

(感覚運動期の年齢範囲)最初の発達段階は、誕生からおおむね2歳頃までの感覚運動期です。感覚運動的知能とは、狭い意味では、言語や明確な表象に先立って成立する知能的適応を指します。乳児は、見る、聞く、触れる、つかむ、口に入れる、物を動かすといった感覚と運動を通して、外界についての理解を組み立てていきます。

(感覚運動的知能の広い意味)感覚運動的知能を広い意味で捉える場合には、知覚そのもの、知覚活動の組織化、行動の習慣化、感覚運動的な学習なども含まれます。乳児の行動は、当初は反射的な活動を中心としていますが、同じ行動を繰り返す循環反応、目的と手段を結びつける行動、新しい結果を確かめる探索などへと発達します。

(対象の永続性と表象の成立)感覚運動期には、目の前から物が見えなくなっても、その物が存在し続けていることを理解する対象の永続性が発達します。また、この時期の終わり頃になると、目の前で実際に行動しなくても、行動の結果をある程度心の中で予測したり、以前に見た行動を後になって模倣したりすることが可能になります。こうした表象機能の成立が、次の前操作期への移行を支えます。

(前操作期から具体的操作期までの大きなまとまり)次の大きな発達段階は、おおむね2歳頃から11、12歳頃までを含みます。一般的な四段階区分でいえば、この時期には前操作期と具体的操作期が含まれます。両者を一つのまとまりとして扱う場合には、言語や心的イメージを用いる表象的思考が成立し、やがて可逆的で組織的な具体的操作へと発達していく過程として捉えることができます。

(前操作期の年齢範囲)前操作期は、おおむね2歳頃から7歳頃までに当たります。2、3歳頃から4歳頃までという年齢範囲は、前操作期全体ではなく、その前半に当たる象徴的機能または前概念的思考が顕著になる時期として捉えるのが適切です。4歳頃から7歳頃までについては、直観的思考が中心となる時期として区別されることがあります。

(象徴遊びと言語の発達)前操作期には、ある物を別の物に見立てる象徴遊びや、ごっこ遊びが盛んになります。例えば、積み木を自動車に見立てたり、棒を刀に見立てたりすることができます。言語も急速に発達し、目の前に存在しない物や出来事について話したり、過去の経験を思い出したりすることが可能になります。これは、現実の対象を記号やイメージによって表す表象機能が発達していることを示します。

(質的同一性の理解)前操作期の前半には、物の見かけや位置が多少変化しても、それが同じ物であるという質的同一性を理解できるようになります。ただし、ここでいう同一性の理解は、数、量、重さ、体積などの保存概念が成立したことを意味するものではありません。例えば、同じ量の水を細長い容器へ移すと、水面が高くなったことに引きずられ、水の量が増えたと判断することがあります。

(前操作的思考の特徴)前操作期の思考は、まだ可逆的な操作として十分に組織化されていません。子どもは、問題の目立つ一つの側面に注意を集中しやすく、複数の特徴を同時に考慮することが難しい場合があります。これを中心化といいます。また、自分とは異なる視点を十分に考慮することが難しいという認知的自己中心性も見られます。ただし、これらは子どもが利己的であるという意味ではなく、複数の視点を調整する認知能力が発達の途中にあることを表しています。

(具体的操作期の年齢範囲)もう一つの具体的操作期は、おおむね7歳頃から11、12歳頃までに当たります。原文にある7、8歳頃から11歳頃という範囲も、おおよその目安として理解できます。この時期には、具体的な事物や経験を対象とする限り、複数の関係を調整し、論理的に考えることが次第に可能になります。

(具体的操作の意味)ピアジェのいう操作とは、心の中で行うことのできる、可逆的で組織化された認知的活動です。例えば、足し算を行った後に引き算によって元へ戻せることを理解するように、一つの変化を逆方向からも考えられることが重要です。具体的操作期の子どもは、見かけの変化だけに左右されず、変化の過程や複数の関係を考慮できるようになります。

(系列化と分類)具体的操作期には、複数の物を長さや大きさなどの基準に従って順番に並べる系列化が可能になります。また、物を共通する特徴に基づいて分類し、一つの物がより小さな集合と、より大きな集合の両方に属することも理解できるようになります。例えば、バラが花の一種であり、花全体の中にはバラ以外の花も含まれるという類包含関係を理解できるようになります。

(保存概念の発達)量、数、重さ、体積などの保存概念も、具体的操作期に次第に成立します。保存とは、物の見かけや配置が変わっても、何も加えたり取り除いたりしていなければ、一定の性質は変化しないと理解することです。ただし、数の保存、液量の保存、重さの保存、体積の保存などが、すべて同時に成立するわけではありません。一般に、課題の種類によって理解が成立する時期には違いがあるとされています。

(数概念の形成)数の概念は、単に数詞を唱えたり、数字を読んだりできることだけを意味しません。要素を一対一に対応させること、順序と集合の大きさを関係づけること、配置が変わっても数は変わらないことなどを理解する必要があります。こうした能力が相互に組織化されることによって、数を操作的に理解できるようになります。

(水平性と垂直性の理解)空間認知に関する課題では、容器が傾いても液面は水平を保つことや、傾いた地面の上に木や建物を描く場合にも、重力に対する垂直方向を考慮することなどが問題となります。具体的操作期には、対象そのものの傾きだけに引きずられず、水平・垂直という空間的な基準を用いて判断する能力が発達します。ただし、その成立時期や成績は、課題の提示方法や経験によっても異なります。

(具体的操作期の限界)具体的操作期の子どもは、具体的な対象や想像しやすい出来事については論理的に考えることができます。しかし、現実に存在する事実から離れ、純粋に仮定された条件だけを用いて体系的に推論することには、なお難しさが残ります。この限界を超えて、可能性そのものを対象として考えるようになるのが形式的操作期です。

(形式的操作期の年齢範囲)三つ目の大きな発達段階は、おおむね11、12歳頃から15歳頃以降にかけて形成される形式的操作の段階です。一般的な四段階区分では、これを形式的操作期と呼びます。形式的操作は11、12歳頃から現れ始めるとされますが、実際の到達時期には個人差があり、すべての人があらゆる領域で同じ水準の形式的操作を示すわけではありません。

(形式と内容の分離)形式的操作段階では、思考が具体的な事物や直接経験した内容だけに拘束されにくくなります。与えられた命題が現実に正しいかどうかとは別に、その命題どうしの論理的関係を検討できるようになります。つまり、思考の内容と、推論を成り立たせる形式とを、ある程度分離して扱うことが可能になります。

(形式的操作の準備と形成)形式的操作の準備的な変化は、おおむね11、12歳頃から現れます。この時期には、比例関係、割合、確率の基礎、変数間の関係、組合せなどを、以前より体系的に考えられるようになります。ただし、割合や確率の問題に正答できることだけで、形式的操作が全面的に成立したと判断することはできません。問題について考える方略や、その根拠をどのように説明するかも重要です。

(組合せ思考)組合せ思考とは、与えられた複数の要素について、可能な組合せを思いつくままに挙げるのではなく、一定の規則に従って漏れなく列挙する思考です。これは、現実に起こったことだけでなく、起こり得る可能性の全体を考える能力と関係しています。

(仮説演繹的推論)形式的操作の重要な特徴の一つが、仮説演繹的推論です。これは、ある現象について複数の仮説を立て、それぞれの仮説から予測される結果を導き、実験や観察によって検証する推論方法です。既に観察された事実を説明するだけではなく、可能性を組織的に検討する点に特徴があります。

(命題操作)命題操作では、個々の具体的な物を直接操作するのではなく、命題と命題の関係を扱います。「もしAならばBである」「Aではない、またはBである」といった命題の組合せを検討し、その論理的帰結を考えることが可能になります。この意味で、形式的操作は、具体的操作についてさらに操作を加える「操作の操作」として説明されることがあります。

(形式的操作の組織化)形式的操作がより組織化される時期は、ピアジェの古典的な説明では、おおむね14、15歳頃以降とされます。この時期には、仮説演繹的推論、命題操作、比例的推論、組合せ思考などを相互に関連づけて用いることが可能になると考えられました。ただし、14、15歳になれば、誰もが自動的に形式的操作を完成させるという意味ではありません。

(形式的操作の個人差と領域差)青年や成人であっても、知識の乏しい領域や、なじみのない課題では、具体的な事例に依存して考えることがあります。反対に、十分な知識や訓練を持つ領域では、年齢が比較的低くても高度な推論が示される場合があります。そのため、現代の発達心理学では、形式的操作を年齢だけで一律に判断せず、課題、知識、教育、文化、動機づけなどとの関係から検討します。

(ピアジェ理論を学ぶ際の注意)ピアジェの発達段階論は、子どもの思考を、成人の不完全な縮小版としてではなく、独自の構造を持つものとして明らかにした点で大きな意義があります。一方で、課題の言語表現を分かりやすくしたり、子どもになじみのある状況を用いたりすると、ピアジェが想定した年齢より早く正答する場合もあります。したがって、段階論は知的発達の質的変化を理解する重要な枠組みですが、個々の子どもの能力を年齢だけで固定的に判断するための尺度ではありません。

(PASS理論への移行)次に取り上げるPASS理論は、知能を一つの総合得点だけで捉えるのではなく、人が課題に取り組む際に用いる認知処理の過程から捉えようとする理論です。PASSという名称は、Planning、Attention、Simultaneous processing、Successive processingという四つの認知過程の頭文字から構成されています。

(PASS理論の成立)PASS理論は、カナダの心理学者J. P. Dasを中心に、Jack A. Naglieri、John R. Kirbyらが、ロシアの神経心理学者Alexander R. Luriaによる臨床的・実験的研究を基礎として発展させたものです。彼らは、知能を主として課題の正答数や一般的能力の高さだけで表すのではなく、情報をどのように処理し、行動をどのように統制するのかという認知能力の観点から概念化することを提案しました。

(ルリアの機能システム論)岡崎らが紹介しているように、ルリアは、脳における高次精神機能が、一つの限られた場所だけに単純に局在するとは考えませんでした。高次精神機能は、脳の複数の領域が一定の役割を分担し、協働する動的な機能システムによって支えられると考えました。その働きを大きく整理したものが、第一から第三までの三つの機能単位です。

(第一機能単位)第一機能単位は、覚醒水準や皮質の活動状態を調整し、精神活動を行うために必要な基礎的状態を維持する働きに関係します。主として脳幹網様体などと関連づけられますが、その働きが脳幹だけで完結するという意味ではありません。課題に意識を向け、必要な活動水準を維持するためには、他の機能単位との協働が必要です。

(第一機能単位と注意)PASS理論では、第一機能単位に関するルリアの考え方を基礎として、Attention、すなわち注意の過程が位置づけられます。PASS理論における注意は、必要な刺激を選択し、不要な刺激への反応を抑えながら、課題への集中を一定時間持続する働きを含みます。ただし、ルリアの第一機能単位と、PASS理論の注意尺度が完全に同一の概念であるわけではありません。

(第二機能単位)第二機能単位は、外界から入る情報を受容し、分析し、符号化し、保持することに関係します。中心的には、後頭葉、側頭葉、頭頂葉などを含む脳後方部の働きと関連づけられます。視覚、聴覚、身体感覚などの情報を処理し、それぞれの情報を意味のあるまとまりとして組織する働きを担います。

(同時処理)PASS理論では、第二機能単位に関連する情報処理を、同時処理と継次処理という二つのタイプに分けて捉えます。同時処理とは、複数の要素を相互に関連づけ、一つの全体的な構造として把握する処理です。例えば、図形全体の関係を把握すること、文章に含まれる複数の情報を統合して意味を理解すること、空間的な位置関係を捉えることなどが挙げられます。

(継次処理)継次処理とは、複数の要素を一定の順序に従って処理し、系列として保持・再生する処理です。例えば、聞いた音や数字を提示された順番どおりに覚えること、語音を順番に組み合わせて単語として処理すること、手順に沿って課題を進めることなどに関係します。

(同時処理と継次処理の関係)同時処理と継次処理は、互いに排他的な能力ではありません。実際の学習や問題解決では、両者が組み合わされることが多くあります。また、同時処理を一つの脳部位、継次処理を別の一つの脳部位に固定的に対応させることはできません。課題の内容に応じて、複数の神経ネットワークが協働します。

(第三機能単位)第三機能単位は、活動の意図を形成し、目標を設定し、行動の計画を立て、実行の過程を調整し、その結果を確認する働きに関係します。主として前頭葉、特に前頭前野を含む脳領域と関連づけられます。この機能単位によって、人は目的的行動や問題解決をどのように進めるかを計画し、必要に応じて行動を修正し、制御します。

(プランニング)PASS理論では、第三機能単位に対応する中心的な認知過程をPlanning、すなわちプランニングと呼びます。プランニングには、問題の性質を理解し、解決のための方略を考え、その方略を実行し、うまくいっているかを確認し、必要ならば別の方略へ変更する過程が含まれます。

(プランニングと実行機能)プランニングの概念は、現在の心理学や神経心理学でいう実行機能、自己調整、メタ認知などと重なる部分があります。自分の行動を監視し、誤りに気づき、方略を修正するという点では、メタ認知とも密接に関係します。ただし、プランニング、実行機能、メタ認知は、それぞれの理論的背景や測定方法が異なるため、完全に同じ概念として扱うことはできません。

(ワーキングメモリーとの関係)プランニングや注意は、情報を一時的に保持しながら操作するワーキングメモリーとも深く関係します。しかし、ワーキングメモリーは前頭葉だけで成立する機能ではなく、前頭前野や頭頂領域などを含む広い神経ネットワークによって支えられています。また、PASS理論の四つの過程のうち、ワーキングメモリーを一つの尺度だけに対応させることはできません。課題によって、注意、同時処理、継次処理、プランニングの複数が関与します。

(三つの機能単位の協働)ルリアの三つの機能単位は、それぞれが独立して働くものではありません。例えば、問題を解くためには、まず適切な覚醒水準と注意を保ち、情報を受容して処理し、解決方法を計画し、実行結果を確認する必要があります。このように、三つの機能単位は相互に関連しながら、全体的な認知活動を成立させています。

(四つのPASS過程の協働)PASS理論におけるプランニング、注意、同時処理、継次処理も、完全に別々に機能するものではありません。例えば、文章題を解く場合には、問題に注意を向け、文中の情報を全体として統合し、計算手順を順序立て、解決方略を計画して実行する必要があります。どの過程が強く求められるかは、課題の種類によって異なります。

(DN-CASの開発)DasとNaglieriは、PASS理論に基づいて、子どもの認知処理の特徴を評価するDas–Naglieri Cognitive Assessment Systemを開発しました。その略称がDN-CASです。日本版DN-CASは、前川久男、中山健、岡崎慎治によって作成され、5歳0か月から17歳11か月までの子どもと青年を適用対象としています。

(DN-CASが評価するもの)DN-CASは、精神年齢や発達年齢を算出する検査ではありません。同じ年齢の集団との比較を通して、プランニング、注意、同時処理、継次処理という四つの認知過程に、どのような相対的特徴が見られるかを評価します。その意味で、子どもの年齢に応じた認知処理の特徴を捉える検査であると言えます。

(DN-CASの尺度構成)DN-CASでは、PASS理論のPlanning、Attention、Simultaneous processing、Successive processingに対応する四つの尺度をPASS尺度と呼びます。日本語では、それぞれプランニング、注意、同時処理、継次処理と表されます。さらに、四つの尺度を総合した認知機能全体の指標として、全検査尺度も算出されます。

(標準実施と簡易実施)DN-CASでは、12の下位検査を用いる標準実施と、8つの下位検査を用いる簡易実施が用意されています。どちらの場合にも四つのPASS尺度を算出できますが、個人の認知的特徴を詳しく検討するためには、検査目的や実施条件を考慮して適切な方法を選択する必要があります。

(PASS尺度の標準得点)DN-CASのPASS尺度は、平均100、標準偏差15となる標準得点によって示されます。この標準得点は、同じ年齢層の標準化集団と比較したときに、受検者の成績がどの位置にあるかを表すものです。例えば、標準得点100は、同年齢集団の平均付近に位置することを示します。

(平均付近の得点の意味)PASS尺度の得点が平均付近にある場合、その尺度で測定された認知処理の成績が、標準化された同年齢集団の平均付近にあると解釈できます。ただし、それだけで子どもの認知発達全体に問題がないと結論づけることはできません。標準得点には測定誤差が含まれるため、信頼区間も考慮する必要があります。また、日常生活や学習場面では、検査得点だけでは捉えられない困難が生じることもあります。

(プロフィールの解釈)DN-CASでは、四つのPASS尺度から得られるプロフィールを通して、子どもの認知処理上の特徴を捉えます。例えば、全体的な得点水準だけでなく、四つの尺度の間に意味のある差があるか、特定の下位検査で一貫した特徴が見られるか、課題への取り組み方にどのような傾向があったかを検討します。

(得点差を解釈する際の注意)尺度間に得点差が見られても、その差が直ちに個人固有の強みや弱みを意味するとは限りません。測定誤差の範囲を超えた差であるか、その程度の差が標準化集団でどのくらい見られるか、行動観察や学習状況と一致しているかなどを検討する必要があります。数値の大小だけを見て機械的に判断することは適切ではありません。

(行動観察の重要性)DN-CASの実施中には、正答か誤答かだけでなく、課題への取り組み方も重要な情報になります。例えば、課題に取りかかるまでの時間、方略の使い方、誤りへの気づき、修正の仕方、注意の持続、衝動的な反応、言語による自己調整などを観察します。こうした情報は、標準得点だけでは分からない認知処理の特徴を理解する手がかりになります。

(支援への活用)PASS尺度のプロフィールは、子どもがどのような方法で情報を処理しやすいか、どのような課題で負担が大きくなりやすいかを考える資料になります。例えば、視覚的な全体構造を示すこと、手順を小さな段階に分けること、注意を向ける対象を明確にすること、課題を始める前に方略を言語化することなど、指導や支援の方法を検討する際に活用できます。

(診断との関係)DN-CASは、学習上または行動上の困難の背景にある認知処理の特徴を理解するために有用ですが、この検査だけによって、限局性学習症、注意欠如・多動症、自閉スペクトラム症などを診断することはできません。診断や総合的な支援方針の決定には、発達歴、行動観察、学校や家庭での状況、医学的情報、他の心理検査などを併せて検討する必要があります。

(ピアジェ理論とPASS理論の違い)ピアジェの発達段階論とPASS理論は、どちらも人間の知的活動を扱いますが、目的と方法は異なります。ピアジェは、子どもの思考構造が発達とともにどのように質的に変化するかを明らかにしようとしました。これに対してPASS理論は、人が課題に取り組む際に、どのような認知処理過程を用いているかを捉えようとします。

(発達段階と個人差)ピアジェ理論では、感覚運動的思考から具体的操作、形式的操作へと向かう、発達上の質的変化が中心となります。一方、DN-CASでは、同じ年齢の子どもどうしであっても、プランニング、注意、同時処理、継次処理の相対的な特徴が異なることに注目します。前者は発達の一般的な変化を説明する理論であり、後者は個人の認知処理の特徴を評価する理論と検査であると言えるでしょう。

(両理論から学べること)ピアジェの発達段階論は、子どもが大人とは異なる仕方で世界を理解していることを教えてくれます。PASS理論は、同じ年齢や同程度の全体得点を示す子どもであっても、課題を処理する方法には違いがあることを示します。両者を学ぶことによって、子どもの認知を、単なる能力の高低ではなく、発達の段階、思考の構造、認知処理の特徴という複数の側面から理解できるようになります。

(教育場面での基本姿勢)発達理論や心理検査は、子どもを固定的に分類するためのものではありません。子どもが現在どのように考え、どこで困り、どのような方法なら理解しやすいのかを知り、適切な学習環境や支援を整えるために用いるものです。得点や段階名だけを見るのではなく、子どもが課題に取り組む過程と、日常の生活や学習の姿を丁寧に捉えることが重要です。