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会議体の限界と政策決定(公共政策第11回)♯放送大学講義録

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最後に、会議体であることから来る限界も指摘しておきましょう。先ほど述べたように、近年では、政策過程の透明化の要請から審議の公開が進んでいます。しかし、この公開性は合意形成にとって足かせになることもあります。合意形成とは、言ってみれば妥協を伴う取引ですが、外の目がある中では譲歩しにくいことが想像できるでしょう。そのため、特に対立が目立つ案件では、全会一致の合意を得ることが難しいこともあります。

また、会議体の目的が実質的な政策決定、すなわち管理的な活動にまで踏み込むかどうかも関わります。政府の意向もある程度踏まえつつ、様々な利害を調整することができれば、会議体の結論は尊重されるでしょう。しかしながら、その分、論理や根拠の不明確さを受け入れざるを得ないこともあります。逆に、明確な結論を出すことに集中することによって、管理的活動を担う政策決定権者に影響を与えようとする方針もあります。

政府の内部で政策領域に関する専門知識を持つ技術系職員や専門職の存在も重要です。しかし、過度な自立性を持つと、特殊な利害が政策に反映されやすくなるという問題が生じます。こうなってしまうと、業界と結託して独自の王国を作り、組織上の上司も口出しできないといったことがこれまでも指摘されてきました。例えば、1990年代の薬害エイズ問題では、医師でもある厚生省の医系技官、医学の専門家たち、そして製薬企業とが癒着し、安全性がないがしろにされたのではないかという問題が指摘されました。また、道路やダムといった公共工事については、土木技官とも呼ばれる技術系職員が、大学の研究者やゼネコン企業と一体になって強い影響力を保持してきたことが指摘されています。

その背景となっている一つの要因が、人事グループ別管理と呼ばれる仕組みです。技術系や専門職はそれぞれの視点で自律的に人事を行っているため、専門知識を保つことに役立っていると見ることもできますし、それが逆に閉塞的な考え方を生んでいると見ることもできます。また、技術の発展が加速している現代においては、新しい専門知識を持つ人材をどのように取り込むかがより重要になっています。そのため、民間企業や大学で仕事をしてきた経験者を中途採用するケースも増えてきましたし、非常勤の参与のような形で知恵を借りることもあります。

しかしながら、社会が複雑化し、一つの問題が別の問題に波及するという相互の連関が広がっていくと、個別の領域の専門性にとどまらない総合的な観点から公共政策を形成する必要が出てきます。どのような形で複数の専門家を活用し、政策を練り上げていくことができるのかが問われています。先に述べたように、内閣レベルで様々な会議体が乱立するのも、その試行錯誤の一つと見ることができるかもしれません。これからも注視していくべき課題と言えます。