ーーーー講義録始めーーーー
AIの誕生と初期の発展
ではまず、AI(Artificial Intelligence)の誕生とその歴史を振り返りましょう。
AI研究の起点は1956年に開催されたダートマス会議です。この会議では、AIという研究用語が初めて提唱されました。
ダートマス会議を主催したのは、AIプログラミング言語「LISP」を発明したジョン・マッカーシーです。彼はAIという研究分野を創出した人物として知られています。また、AI、認知科学、哲学における研究を進めたマービン・ミンスキーをはじめ、約10名の研究者が会議に参加しました。この会議では、「知性とは何か」という哲学的なテーマに加え、言語理解、機械学習、ニューラルネットワークといった今日でも重要なAI研究の課題が議論されました。
第一次AIブーム:汎用問題解決の時代
AIの誕生後、1960年代には最初のAIブームが訪れます。この時期にはさまざまなAIシステムが開発されました。その中でも代表的なものが、1957年にハーバート・A・サイモンとアレン・ニューウェルによって提唱された**GPS(General Problem Solver:一般問題解決機)**です。
GPSは汎用的な問題解決方法を目指し、**手段-目標分析(Means-End Analysis)**を実現しました。この手法は、初期状態と目標状態の差を縮小するために適切な操作を選択・適用する問題解決のアプローチです。数学の定理証明やチェスなど、形式的に表現できる問題に適用可能であることが示されました。
ただし、実社会の問題は形式的に表現できないものも多く、GPSは産業界や社会からの評価を得るには至りませんでした。それでも、当時のAI研究は汎用的な問題解決手法に注力し、次のような重要な技術が提案されました:
- 演繹推論(Deductive Reasoning)を実現する導出原理(Resolution Principle)
- 問題解決の道筋を探索するA*アルゴリズム
これらの技術により、AI研究者の関心は形式的で汎用的な問題解決に集まりました。
導出原理の詳細
1965年、ジョン・アラン・ロビンソンによって提案された**導出原理(Resolution Principle)**は、AIの定理自動証明の分野で画期的な進歩をもたらしました。当時のコンピューターは処理速度が遅く、多くのルールを処理する従来の方法では時間がかかりすぎるという課題がありました。
導出原理は、以下の手法で効率的な自動証明を可能にしました:
- **三段論法(Syllogism)**を基盤とする論理的推論。
- **単一化(Unification)**という代入操作を利用。
このシンプルな手法は、計算効率が高く、1970年代には論理型プログラミング言語「Prolog」の基盤となり、さらに1980年代の日本の国家プロジェクト「第五世代コンピュータ」の理論的支柱ともなりました。
導出原理に基づく定理証明では、証明したい命題の否定を加え、それが矛盾に至ることを示す**背理法(Reductio ad Absurdum)**を利用します。この方法により、命題が正しいことを証明します。
AIの初期研究の影響
初期のAI研究は、形式的な問題解決や論理推論に焦点を当てていました。これにより、AIは形式的な計算モデルを用いた問題解決を得意とする一方、実社会の複雑な問題に対応するためにはさらなる進化が求められることが明らかになりました。
具体例や詳細な説明については、印刷教材の図表1-1を参考にしてください。