ーーーー講義録始めーーーー
今回は、病気や障害を抱えた人々への支援に関する社会福祉実践の現状と課題について理解を深めることを目的とします。最初に、日本の近年の医療政策の動向を概観した上で、医療機関において社会福祉実践を担う医療ソーシャルワーカーの任務、役割、業務について説明します。さらに後半では、近年増加傾向にある複合的な困難を抱える単身高齢者の事例を紹介し、どのような支援が必要かを一緒に考えます。また、身元保証人のいない入院患者の支援に取り組んできた医療ソーシャルワーカーへのインタビューもご紹介します。
では、まず近年の医療政策の動向を押さえておきましょう。
我が国では、他国に例を見ない速度で少子高齢化が進み、高齢者の医療ニーズが高まっています。また、医療技術の進歩により高度な治療や薬剤の高額化などの理由から、国民全体の医療費が増加し続けています。さらに、要介護高齢者の増加、介護期間の長期化、高齢者世帯や単独世帯の増加により、介護の需要も増大しています。こうした背景から、政府は持続可能で質の高い医療・介護を実現するために、さまざまな政策を展開してきました。
2014年には「医療介護総合確保推進法」が施行され、団塊世代が後期高齢者となる2025年に向けて、医療・介護の総合的な確保に関する法律改正が行われました。この「医療介護総合確保推進法」とは、地域における医療および介護の総合的な確保を推進するために、次の2つを一体的に進めることを目的としています。
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効率的かつ質の高い医療提供体制の構築
医療や病床の機能を、高度期、急性期、回復期、慢性期といった段階に分け、在宅医療と連携して効率よく運用する体制の整備を推進しています。さらに、この連携を加速させる取り組みが行われています。 -
地域包括ケアシステムの構築
地域包括ケアとは、介護が必要な状態になっても、住み慣れた地域で生活を続けられるよう、概ね自宅から30分以内に必要な生活支援サービスを提供する体制のことを指します。
この2つの政策を一体的に推進することが、この法律の狙いとなっています。
こうした医療と介護の政策動向を背景に、医療機関で働く社会福祉実践の担い手である医療ソーシャルワーカーには、まず自らが所属する医療機関の機能に応じて患者や家族の支援を行うことが求められます。さらに、地域包括ケアを前提とした医療・介護関係者との連携ネットワークを構築し、利用者が身近な生活圏内でサービスを受け、地域で生活を継続できるような体制を整える活動も重要です。これらの支援や活動を、ソーシャルワークの価値である「人権」と「社会正義」の観点から、利用者主体の支援として展開していくことが求められています。