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医療政策と現場の連携課題(社会福祉実践とは何か第8回)#放送大学講義録

ーーーー講義録始めーーーー

 

さて、先ほど述べた近年の政策動向は、私たち一人ひとりにどのような影響を及ぼすのでしょうか。ここでは、ミクロの視点からその経験について考察します。何らかの病気や怪我で医療機関を受診する場合、一過性の治療で済むこともありますが、集中的な治療や入院が必要となったり、長期間にわたる治療・リハビリテーション、または医療と介護の両方が必要になる場合もあります。現行の医療政策では、医療や病床の機能が「高度期」「急性期」「回復期」「慢性期」といった区分に基づいて運用されており、治療や療養の現場が段階的に移行していく仕組みとなっています。

たとえば、脳血管疾患を発症した高齢者が、救急搬送された病院で急性期治療を受け、その後、高齢の配偶者が介護を十分に行えないため、日常生活が自立できるレベルまで回復することを目的として回復期リハビリテーション病棟へ転院するとします。そして、リハビリを終えた数ヶ月後、介護保険サービスを利用しながら自宅復帰を目指すか、または高齢者施設への入所を検討するという流れは、決して珍しい事例ではありません。患者にとって、適切な医療と集中的なリハビリテーションは望ましい支援ですが、一方で、治療や療養の現場が移行することによる否定的な影響も懸念されます。これを「リロケーションダメージ」と呼び、特に高齢者にはその影響が大きいと言われています。リロケーションダメージは、身体的、精神的、社会的側面にわたり、これらは相互に関連しています。

また、患者やその家族にとって、医療や介護の制度、サービスが複雑であるため、適切な意思決定が困難な状況も問題となります。病気により患者本人も家族も大変な状況下で、医療や介護に関する最良の選択を迫られることになります。インターネット上には各種情報サイトが充実しているものの、個々の状況に合わせた判断には専門家の支援が必要なケースが多いのが現状です。さらに、身寄りがなかったり、家族と疎遠であったり、生活費や障害などさまざまな困難を抱える患者にとって、リロケーションダメージや複雑な制度下での意思決定の難しさは一層深刻となります。これは単なる困難に留まらず、制度からの排除や権利侵害の懸念をも引き起こす可能性があります。

こうした問題に対しては、医療や介護に携わる関係者が、患者や家族の状況、心情、ニーズに応じて個別に対応することが求められます。そのためには、問題を見越した支援体制の構築が不可欠です。たとえば、各医療機関では、丁寧な説明と同意取得の体制が必要とされ、また、患者や家族の個々の状態に合わせた相談体制の組織的な整備も求められます。さらに、地域の医療機関や介護福祉機関がスムーズに連携できるネットワーク作りや、制度・支援の中での権利侵害に対する権利擁護の体制の整備が重要です。医療ソーシャルワーカーは、チーム医療や地域ネットワークの一員として、所属組織や地域においてこれらの課題に対する存在意義を発揮することが期待されています。