ーーーー講義録始めーーーー
肥満には、脂肪がついている部位の違いによって、大きく分けて2つのタイプがあります。
脂肪組織は、**内臓の周囲に存在する「内臓脂肪」**と、**腹部以外、つまり胴体や四肢の皮下に存在する「皮下脂肪」**に分類されます。
この2つの脂肪の違いは、腹部CT検査によって明確に把握することができます。近年では、人間ドックなどでもこのような腹部CT検査が一般的に実施されています。
内臓脂肪が皮下脂肪より相対的に多いタイプの肥満は、**内臓脂肪型肥満(男性型肥満、りんご型肥満、腹部肥満)**と呼ばれ、特に男性に多い傾向があります。これはお腹が前にせり出すような体型が特徴です。
一方、皮下脂肪が内臓脂肪より多いタイプの肥満は、**皮下脂肪型肥満(女性型肥満、洋ナシ型肥満)**と呼ばれ、女性に多く見られます。このタイプでは、腰回りから下半身にかけて脂肪が蓄積しやすい特徴があります。
一般的には、内臓脂肪型肥満の方が、皮下脂肪型肥満よりも健康障害のリスクが高いとされています。
肥満症の定義と関連疾患
「肥満症」とは、内臓脂肪の蓄積に加えて、肥満に起因する健康障害を1つ以上有する状態と定義されます。
具体的には、以下のような疾患が挙げられます:
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2型糖尿病
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脂質異常症(高トリグリセリド血症、低HDLコレステロール血症など)
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高血圧症
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高尿酸血症・痛風
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冠動脈疾患(狭心症・心筋梗塞)
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脳梗塞・一過性脳虚血発作(TIA)
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非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)
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月経異常・女性不妊症
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閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS)
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肥満低換気症候群
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運動器疾患(変形性関節症、腰痛など)
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肥満関連腎臓病(肥満関連糸球体障害など)
これらの疾患に対しては、減量による医学的介入・治療が推奨されます。
メタボリックシンドロームとその診断基準(日本)
1980年代後半から1990年代初頭にかけて、肥満症に高血圧・糖代謝異常・脂質代謝異常が合併すると、動脈硬化性疾患が高頻度で起こることが明らかになり、これらを統合的に捉える概念として、メタボリックシンドロームが注目されるようになりました。
現在、メタボリックシンドロームは世界的に広く知られており、診断基準は各国で多少異なります。
日本では2005年に、日本肥満学会、日本動脈硬化学会など8学会の合同により、腹部肥満を必須項目とする診断基準が策定されました。
【日本のメタボリックシンドローム診断基準(2005年)】
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腹部肥満(必須項目)
- 男性:ウエスト周囲径 ≧ 85cm
- 女性:ウエスト周囲径 ≧ 90cm -
以下の3項目のうち2つ以上に該当する場合に診断
- 脂質異常:
- 中性脂肪(トリグリセリド) ≧ 150 mg/dL
- または HDLコレステロール < 40 mg/dL
- 血圧異常:
- 収縮期血圧 ≧ 130 mmHg
- または 拡張期血圧 ≧ 85 mmHg
- 高血糖:
- 空腹時血糖 ≧ 110 mg/dL
この基準に基づき、**2008年度から、40歳以上の被保険者を対象に「特定健診・特定保健指導」**が健康保険組合・国民健康保険などに義務付けられました。
このようなメタボリックシンドロームに着目した国家的介入政策は、世界的にも稀であり、その成果には国内外から注目が集まっています。
小児期からの対策の重要性
近年では、小児期の肥満が将来の肥満や動脈硬化性疾患のリスク要因となることも明らかになっており、幼少期からの適切な生活習慣の指導や予防対策の重要性が一層強調されています。