ーーーー講義録始めーーーー
2‑4. 動脈硬化の発生機序
動脈硬化、特にアテローム性動脈硬化症(粥状硬化)は、血管壁の慢性炎症と脂質代謝異常が組み合わさって進行する疾患です。ここでは、その代表的なメカニズムを説明します。
血管壁の構造
動脈は、内側から順に
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内膜(intima)
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中膜(media)
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外膜(adventitia)
の三層構造を持ちます。
アテローム(粥状斑)の形成過程
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内皮障害
高血圧・喫煙・高血糖・酸化ストレスなどで、内膜を覆う内皮細胞が傷つくと、血管透過性が亢進します。 -
LDLコレステロールの侵入・酸化
血中のLDLコレステロールが、損傷部位から内膜下に浸入し、活性酸素などにより**酸化LDL(oxLDL)**に変性します。 -
単球→マクロファージの取り込み
酸化LDLは異物とみなされ、血管内皮から結合組織に浸潤した単球がマクロファージに分化し、oxLDLを貪食します。 -
泡沫(ほうまつ)細胞の形成
大量のoxLDLを取り込んだマクロファージは、**泡沫細胞(foam cell)となり、内膜に脂肪ストリーク(脂肪条)**を形成します。 -
線維性プラークの成熟
泡沫細胞や平滑筋細胞から分泌されるコラーゲン・プロテオグリカンにより、脂肪ストリークは線維性プラークへと成熟します。プラークは内腔を狭め、血流障害を引き起こします。 -
プラーク破綻と血栓形成
プラーク表面の線維性キャップが薄くなると破綻し、血小板の凝集・フィブリン生成による血栓が生じます。これにより急性の血管閉塞(心筋梗塞・脳梗塞)が起こります。
脂質の役割
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LDL(悪玉コレステロール):動脈壁に蓄積し、アテロームを促進。
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HDL(善玉コレステロール):血管壁から余剰コレステロールを肝臓へ運搬し、動脈硬化を抑制。
HDLコレステロール低値は、メタボリックシンドローム診断基準の一項目にも含まれています。
慢性炎症としての動脈硬化
動脈硬化は、単なる“脂が詰まる”現象ではなく、マクロファージや平滑筋細胞の活性化を伴う血管の慢性炎症と捉えられています。高血圧・糖尿病・脂質異常症・喫煙などの生活習慣病が、この炎症反応を誘導・増悪させます。
(必要に応じて図表例)
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図:アテローム性動脈硬化の進展過程模式図
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表:血管壁の三層構造と主要細胞
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図:LDL vs. HDL の動脈壁における作用比較