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人とICTはどう融合するのか――GOA自動運転・上位概念化・理論と実践の循環から学ぶ経営情報学 #放送大学講義録(経営情報学入門第1回その7)

ーーーー講義録始めーーーー

 

人とICTの融合、そして理論と実践の循環
――企業情報化協会名誉会長・小縣方樹氏インタビュー(後編)

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さて、最後に先ほどの小縣さんのインタビューの続きを見ていただきます。インタビューでは、今回の講義でも取り上げた「人とICTの融合」「理論と実践との相互作用」について、実務家の立場からお話しいただきました。公益社団法人企業情報化協会の名誉会長は小縣方樹氏であり、JR東日本でも経営と技術の両面に深く関わってきた人物です。

■ インタビュー(後編①):人とICTの融合――GOAの自動化レベルを例に

――経営情報学において、人とICTの融合が重要視されておりますが、実務の最前線で活躍されてきたご経験から、人とICTの融合というのは今後どのように展開していくとお考えでしょうか。

はい。それでは、少し分かりやすい例があるといいので、私どもが目指す鉄道の自動運転で説明します。ここに表示されておりますのはGOAというものなんですが、このGOAというのは Grade of Automation、すなわち鉄道の自動化レベルを表す国際的な整理の枠組みです。自動車の自動運転レベルとは少し違いまして、鉄道では通常、GOA0からGOA4までの五段階で説明されます。

【図:GOA(Grade of Automation)鉄道の自動化レベル】

GOA(Grade of Automation)鉄道の自動化レベル PNG

0の段階というのは、簡単に言えば保安装置や自動運転装置がない手動運転の段階です。今日の都市鉄道や幹線鉄道では主流とは言えませんが、理論上の基準点として置かれています。現在多くの鉄道で一般的に見られるのは、GOA1、すなわち運転士による手動運転に保安装置が組み合わされた段階です。たとえば発進や停止、速度変更は運転士が行いますが、システムが安全のために速度を抑制したり、危険時に介入したりするわけです。

ところが、我々がさらに目指すのはGOA2やGOA3の段階なんですけれども、GOA2は運転士が乗務する自動運転です。列車の走行自体は自動化されますが、発車の確認や非常時対応など、人が担う役割はなお残ります。ここで重要なのは、GOA2とは「車掌の有無」で決まるのではなく、列車運転の主体と安全責任の分担のされ方で区分されるということです。

さらにはGOA3ということで、ドライバーレスではあるが係員が乗務する段階があります。これは、運転士免許を持つ運転士が前方で操作する形ではなく、人は主として非常時対応や一部の旅客対応を担うという、一段高い自動化レベルです。一般に、GOA3では通常運転は自動化される一方、異常時への対応にはなお人が重要な役割を果たします。

この上にGOA4があって、当然、私どももその方向を見据えておりますが、そのためには、たとえば踏切の問題やホームの安全確保の問題などが課題として出てまいります。無人運転では、列車内に運転要員がいないため、線路立入やホーム端部の安全確保、異常時対応の仕組みづくりが極めて重要になります。英国の鉄道安全当局も、GOA4では従来の有人運転とは異なる安全上の配慮が必要だとしています。

現在、JR東日本では、新幹線においてすでに自動運転の試験が行われています。2023年時点のJR東日本・JR西日本の公表資料では、JR東日本はGOA3・GOA4の実現を視野にATOを開発しているとされており、2024年の発表では、上越新幹線でまずGOA2、その後GOA3、さらに回送列車でGOA4を目指す段階的計画が示されています。したがって、ここで重要なのは、完全無人運転を一足飛びに実現するのではなく、人とシステムの役割分担を見直しながら段階的に高度化していくということです。

ご質問の人と機械、すなわち人とICTのことを考える上では、このような発展の各段階においても、私は人と機械のあり方を考えることが極めて大事だと思います。かつては「マン・マシーン」という言い方もありましたし、「エルゴノミクス」、すなわち人間工学という考え方もあります。現在の学術的な用語では human-machine system や human factors / ergonomics といった表現が一般的ですが、いずれにしても重要なのは、人と機械を対立的にではなく、相互作用する一つのシステムとして捉えることです。

そして、人工知能が人間の能力を超えるかもしれないという議論の中で「シンギュラリティ」という言葉も語られますけれども、私は、常にこうした各段階でしっかりと哲学を持ちなさいと言っています。どういうことかというと、機械化・システム化することによって、「では人は何をするのか」ということを考えなければならないということです。システムや労働環境が変わる以上、人が担うべき仕事、責任、判断は何なのかを考えることが極めて大事だと思っております。

ですから、この課題は私の生涯の課題かなと思っておりますし、大変大事な課題であります。

■ インタビュー(後編②):理論と実践の循環――上位概念化という方法論

――経営情報学は、学問的にも理論と実践の相互作用が非常に強いものとされています。この点について、実務家の立場からはどのようにお考えになられますか。

社内や様々な講演でもよく言うんですが、「上位概念化」ということで、私の場合は、個々の事象を抽象化し、より上位の概念やモデルに整理する能力が大事だということを申し上げております。これは安全の場面でよく使う考え方なんですけれども、現場では一見ランダムに起きるように見える様々な事故やインシデントという実例がありますが、それらを個別事象のまま扱うだけでは十分ではありません。そこから共通する構造や原因を見出して、再発防止に役立つモデルや原則へと抽象化していくことが必要なのです。

【図:トランスレーショナル・アプローチ(理論モデルと実践の循環)】
〔解説〕理論モデルと実践との往還を示す図です。この構造は、トランスレーショナル・アプローチの循環プロセスに対応しています。理論を実践へ適用し、実践で得られた知見を再び抽象化・一般化して理論へ返すという循環を表しています。〕

鉄道業界で言いますと、現場には本当に様々な条件があります。運輸、車両、保線、電力、信号、通信、土木建築、機械など、ほとんど全ての技術系統が揃っておりますし、北は雪国から東京まで、気候条件も輸送密度もまったく違います。そのような多様な現場で起きる事象を、抽象化し、モデル化し、「なぜその事象が起きたのか」という構造を上位概念として捉え直すことが必要です。そして、そのモデルを別の現場へ適用し、そこでの実践結果をまた新たな知見として取り込み、さらにモデルを磨いていく。この循環は一つではなく、さまざまな現場で複数並行して起きるものです。いずれにしても、理論・モデル化と実践、そしてその繰り返し・循環は極めて大事であり、これは鉄道に限らず、全ての経営に共通することだと思います。

■ インタビュー(後編③):経営情報学を学ぶ学生へのエール

――最後に、経営情報学の重要性について一言と、これから経営情報学を勉強する学生さんたちへエールをお願いいたします。

はい、わかりました。皆様方が社会を変革する企業リーダーとなるためには、経営情報学を学ぶことが極めて重要だと思っております。私は先ほどもちょっと申し上げたんですが、常に「鉄道はシステム・オブ・システムズだ」と説いております。これは、複数の高度に発達した個別システムを、全体として統合的なシステムに束ねて運営する必要があるという意味です。

高度に発達した個別のシステムを、全体として一つの統合的なシステムに束ねていくということは、まさにシステムを経営するということにつながるわけでございます。極めて重要であります。その意味では、先ほど申し上げたこの上位概念化、すなわち個々の実践から抽象化・モデル化を行う力や、システム思考を磨いて、実践から理論やモデルを構築する能力、その理論やモデルを基に実践する能力を高め、理論・モデルと実践を循環させることが、これからは大事だと思います。皆様が努力を積み重ねれば必ずできると思います。頑張ってください。

■ まとめ

いかがでしたか。今回のインタビューでは、トランスレーショナル・アプローチを理解する一つの具体例が示されました。今回は、経営情報学入門のイントロダクションとして、経営情報学という学問領域についてお話ししました。

まず、「経営情報学とは何か」。
次に、「経営情報学の基本的枠組みであるシステム志向」。
そして、「経営情報学における組織の捉え方」。
最後に、「経営情報学への接近方法」と、それを用いた全体の構成についてお話ししました。

【キーワード】
GOA(Grade of Automation)、自動運転、人間工学、human-machine system、シンギュラリティ、上位概念化、抽象化、理論と実践の循環、システム・オブ・システムズ、システム思考