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人的資源管理における成果主義批判と日本企業の賃金改革課題――内発的動機づけ・チームワーク・同一労働同一賃金・外部競争性を踏まえて解説 #放送大学講義録(人的資源管理第6回その7)

ーーーー講義録始めーーーー

 

成果主義への批判と日本企業のこれからの課題
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こうした成果主義が導入されてきたわけなのですが、それに対しては結構な批判もありました。これもご紹介しておきたいと思います。

成果主義に対する主な批判として、2つ紹介したいと思います。

◆ 批判1:金銭的インセンティブが強化されると仕事そのものへの動機づけが弱まるおそれがあること

これは、心理学における内発的動機づけの研究から来たものです。学生にゲームのような課題をさせる実験などでは、外的報酬を与えることで、課題そのものへの関心が弱まる可能性が指摘されてきました。したがって、あまりお金による誘因を前面に出しすぎると、仕事そのものに対する関心ややりがいが弱くなるのではないか、というような批判がなされたということになります。もちろん、これはゲームと仕事というものを同列に扱っていいのかということについては反論もあろうかと思いますし、外的報酬の効果は課題の性質や報酬の与え方によっても異なります。ただ、こういう批判がなされたということですね。

◆ 批判2:成果主義を入れると、みんなが個人主義になり、能力開発やチームワークが軽視されるおそれがあること

成果主義に対しては、個人ごとの成果を強く求めるようになることで、協調や長期的な能力形成が弱まり、日本企業が得意としてきたチームワークや人材育成が損なわれるのではないか、という懸念も強く示されました。こういったことで、成果主義が導入され始めた当初、かなりその賛否両論がありました。少なくとも、高度成長期やバブル経済期において職能給を使っていた日本企業が好調だったので、職能給でいいじゃないか、なぜ成果主義なのかという議論が出たというのはわかるような気がします。こういった批判が盛んになされたということになります。

しかし、近年になって成果主義の実態を丁寧に調査した研究があって、そうした批判に対する回答なども分かってまいりました。それらの内容を要約するとこのようになります。

確かに以前よりも財務指標等々が重視されて、かなり人事管理が厳しくなりました。組織目標が個人にブレイクダウンされて、それが人事管理と結びつく、かなり数字による管理も出てきたので、厳しいと言えば厳しいです。

ところが、多くの企業で数値による管理だけが行われているのではありません。能力や行動といったプロセスも同じように重視されていて、結果に基づく賃金と言いながら、それだけで評価されるのではなく、目標設定の納得性や評価者訓練、部門目標・全体目標との関係なども重視されるようになってきたということが分かってきました。

また、多くの企業では、個人の成果とは何かとか、成果に結びつく能力とは何かといったことがかなり丁寧に議論されて、仕事管理がかつてよりも丁寧になったということも分かってきました。ですから、その結果として一概に人材育成がおろそかになったという先ほどの批判には当たらない、少なくともそう単純には言えないというような話も出てきました。さらに、成果主義化に伴う処遇の変化は中高年層で比較的大きく、若い人については従来型の賃金運用が相対的に残る場合も多かったことが指摘されています。

これらを見ると、日本企業の成果主義というのは、多くの場合かなりマイルドでプロセス重視の成果主義だということが言えますし、かなり慎重に検討された結果導入されている。批判する人が心配していたような乱暴な制度とは言えないのではないかということも言われているわけです。

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【日本企業が直面するこれからの課題】

今回の授業の最後に、日本企業が直面するこれからの課題についてお話ししておきたいと思います。

◆ 課題1:仕事や役割を踏まえた、説明可能で納得性のある賃金制度への見直し

仕事に基づく賃金に関しては、2019年4月以降、順次施行されている働き方改革関連法があります。ここでは特に非正規社員と正規社員との賃金格差の是正ということで、いわゆる同一労働同一賃金が重視されているわけですね。ただし、これは同一企業・団体内における正規雇用労働者と非正規雇用労働者との間の不合理な待遇差をなくすという考え方であって、直ちにすべての企業に職務給・役割給への全面移行を求めるものではありません。とはいえ、それを意識するとすれば、少なくとも仕事や役割、責任の違いを説明しやすい、納得性の高い賃金制度をさらに追求していくことは必要になると思います。これは、先進的な企業や大企業だけではなくて、多くの企業に求められる方向になってくるのではないかと思われます。

◆ 課題2:外部競争性を重視した賃金管理

日本企業では、転職が少ないということもあって、内部公平性の方ばかりを重視する傾向が強かったんです。ところが、少子高齢化や人手不足の影響もあって、若年労働者や専門人材の獲得競争というのが厳しくなってきて、労働市場が以前より活発になってきているわけなんですね。実際、人材獲得のために多くの企業が初任給の大幅な引上げを行っていることや、春闘でも初任給や企業内最低賃金の増額が報告されていることが確認されています。

また、一部企業では、採用段階から職種・能力・専門性などを踏まえて、初任給や等級に差を設ける動きもみられます。博士人材など高度専門人材についても、初任給・等級など処遇の見直しが課題として挙げられています。

こういうことが多くなると、今までの日本企業が行っていた職能給時代の賃金制度を根本から見直さなければいけませんし、先ほど言ったマイルドな成果主義における若手の賃金カーブなどもかなり修正が必要になってくることが考えられます。おそらく、こうした賃金の外部競争性というのは、企業自体の競争力を左右することにもなるのではないかと考えられます。

こうした時代に、日本企業は、これまでやってきたことを維持するという考え方から、それを潔く捨てて新たな考え方にシフトするということをもっと意識しなければいけない、こういう時代になってきたとも考えられるわけです。

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今回は賃金制度についてお話をしてまいりました。