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セルフヘルプグループ創出事例(社会福祉実践とは何か第7回)#放送大学講義録

ーーーー講義録始めーーーー

 

では、ここからは印刷教材で取り上げている、私自身が実際に関与したピアサポート活動の原点とも言えるセルフヘルプグループの立ち上げ支援についてお話しします。

セルフヘルプグループは、自助グループや相互援助グループとも呼ばれ、共通の悩みや課題を持つ人々が集まり、その課題に対処することを目的とするグループです。セルフヘルプグループの特徴は、仲間との対等な関係性、専門職の支援からの独立、自主的な運営にあり、ピア(経験を共有できる仲間)の力が最大限に発揮される場となります。仲間とのつながりや生き方は、回復への希望をもたらす重要な要素です。しかし、個々人のリカバリー、すなわち回復を目的とした精神障害者のセルフヘルプグループは、地域にはまだ十分に普及していません。印刷教材では、医療機関でプログラムとして行われていたグループから、個々の回復を目的としたセルフヘルプグループがどのように作り出され、メンバーがどのように変化していったかを実践事例として記述しています。

【図表:セルフヘルプグループ創出へのPSWとメンバーの相互作用】

  1. セルフヘルプグループ活動決定期

    • PSW(ピアサポートワーカー)が、メンバーにセルフヘルプグループの情報を提供し、立ち上げへの動機付けを行う。
    • この時点では、PSW主導でメンバーは受け身の状態であった。
  2. セルフヘルプグループ活動準備期

    • メンバーが主体的に行動を始め、PSWがそれに応える形で準備が進む。
    • PSWはセルフヘルプグループの運営や形態について提案するが、採用するかどうかはメンバーが話し合いで決定する。
  3. セルフヘルプグループ開始・活動促進期

    • メンバーは自立し、PSWは活動の見守り役となる。
    • 約1年半後、グループが安定した段階で、PSWはグループの継続・発展に寄与するイベントの開催を提案し、メンバーが主体的に実行する。

医療機関で行われるグループミーティングは、統合失調症などの病気を抱える患者が、自らの体験や思いを語り、病気を受け入れ回復へと向かうことを目的として月1回実施されていました。しかし、グループが成熟するにつれ、医師やソーシャルワーカー、PSWの支援の下で、より個々の回復を目的としたセルフヘルプグループの立ち上げが模索されるようになりました。実例として、PSWは、自己決定を促す「SAスキゾフレニクス・アノニマス」というセルフヘルプグループの創設を検討しました。なお、SAは、アルコール依存症のセルフヘルプグループであるAlcoholics Anonymous(AA)をモデルに、アメリカで創設されたグループです。日本では、北海道の浦川べてるの家で始められた事例があり、地域におけるグループ創出が支援されました。

印刷教材の表では、PSWがどのような考えのもとでグループに関わり、メンバーがどのように行動していったのかを、支援者の視点から時系列に追っています。

  • セルフヘルプグループ活動決定期: PSWが情報提供を行い、メンバーの動機付けを図る。
  • セルフヘルプグループ活動準備期: メンバーが主体的に行動し、PSWがそれに合わせた準備を進める。
  • セルフヘルプグループ開始・活動促進期: メンバーが自立し、PSWは見守り役となる。約1年半後、グループが安定したタイミングで、PSWは継続・発展のためのイベント開催を提案し、メンバーが全体を仕切る形で実施する。

このプロセスを通じて、メンバーは「我々のグループ」という意識を明確に持ち、それぞれが責任ある個人としてグループにコミットするようになりました。これは、医療機関でのグループ運営とは異なり、対等な関係性の中で自己理解を深め、仲間同士が互いに尊重し合いながらエンパワーメントされていくプロセスです。医療機関における専門職と患者の関係は、非対称的な権力関係や依存関係が生じやすいですが、今回の事例では、PSWがどこまでサポートを行うかを自覚的に判断することで、セルフヘルプグループとメンバーの主体性・自立が促進されたと考えられます。
端的に言えば、支援者として「口を出したい」「手を差し伸べたい」という欲求をメンバーに委ねることが、セルフヘルプグループの場の特性を生かす鍵となりました。一方で、PSWは「セルフヘルプグループの場で体験を語り合うことがリカバリーにとって重要である」という知識を伝え続け、その意味が実践を通じてメンバーに理解されるようになりました。