ーーーー講義録始めーーーー
肥満と腸内細菌叢の関与
最近の研究で、肥満の発症には宿主が保有する腸内細菌叢が重要な役割を果たすことが報告されています。
たとえば、肥満者由来の腸内細菌叢をやせ型者に移植すると、受け手の体重増加を促すという実験結果は大きな反響を呼びました。これは、エネルギー摂取量がBMIなどによって一律に決まるのではなく、腸内細菌叢の個人差によっても変動することを示唆しています。
体表面・消化管に棲む細菌数の目安
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皮膚:1 cm²あたり 10^4 ~ 10^6 個以上
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口腔内(唾液):1 mLあたり 10^8 ~ 10^9 個
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小腸:内容物1 gあたり 10^4 ~ 10^7 個
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大腸:内容物1 gあたり 10^11 ~ 10^12 個
これらの常在細菌の総数は、人体の体細胞数の2倍~3倍にのぼるとも言われ、重さにして約1–2 kgにも達します。また、糞便の約半分は腸内細菌(およびその代謝産物)と報告されています。
腸内細菌叢の機能
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非消化性食物繊維の発酵・分解
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短鎖脂肪酸(酢酸・プロピオン酸・酪酸など)の産生によるエネルギー獲得
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腸管免疫系の成熟・制御
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宿主代謝経路(脂質・糖代謝)への影響
これら多様な機能を通じて、腸内細菌叢は宿主の代謝恒常性やエネルギー収支に大きく関与し、ひいては肥満や生活習慣病のリスクを左右しています。