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発達段階説(2) - エリクソンとレビンソンの理論 #放送大学講義録(成人の発達と学習第3回その3)

ーーーー講義録始めーーーー

 

エリクソンの発達段階

2番目に紹介するのは、アメリカの心理学者であるエリクソン(Erikson)による発達段階についての考えです。エリクソンは、ハヴィガーストと同様に、生涯を通じて連続した発達段階を経るという考え方を取り、一連の危機と課題を表す8つの発達の段階を提示しています。

エリクソンの理論では、乳児期、幼児期、遊戯期、学童期、青年期、成人期、壮年期、老年期といった時期(日本語訳・解釈には揺れがありますが、ここでは便宜的にこのように呼びます)にそれぞれ固有の「心理社会的危機」があり、これをどう乗り越えるかが人格発達に関わるとされています。

エリクソンの発達課題は、それぞれの段階で「相反するプラスとマイナス」の側面、つまり肯定的な側面と否定的な側面の両方を含んでいます。たとえば「信頼 vs 不信」「自律性 vs 恥・疑惑」「アイデンティティ vs 同一性拡散」といった形ですね。それぞれが拮抗する中で発達課題をクリアするため、マイナスが完全にゼロになるわけではありませんが、マイナスよりもプラスが一定以上優勢になることが、その段階に固有の「徳(virtue)」の形成につながるとされています。

例えば、壮年期の発達課題は「生殖性(generativity)対停滞(stagnation)」と言われます。生殖性とは、子育て、社会的業績や芸術的創造を含む次世代への継承を意味します。エリクソン自身も、生殖性を「プロクリエイティビティ(生み出すこと)、プロダクティビティ(生産性)、クリエイティビティ(創造性)」を含む、次世代を導き、社会に貢献する広い関心として位置づけています。
この生殖性と停滞という発達課題の対立の中から、「ケア(care)」と言われる「世話」「世代間への気づかい」という徳が生まれるというわけです。

一方、老年期の発達課題は「自我の統合(ego integrity)対絶望(despair)」です。自我の統合とは、自分の人生を振り返り、良いことも悪いことも含めて「これが自分の人生だった」と納得し、自分のこととして引き受けることですね。様々な経験や出来事を振り返り、未解決な体験や過去にやり残した課題に向き合い、それらを自分なりに整理し、自分の人生をまとめ上げることが老年期の発達課題と言えましょう。老年期は人生の集大成の時期ですし、それまで蓄積した経験に基づいて自分の人生を統合する時期とも言われています。この段階をうまく乗り越えたときに得られる徳は「英知(wisdom)」とされ、人生を受け入れる姿勢と結びつけられています。 

参考:エリクソン理論における成人期以降の段階(抜粋)

段階 おおよその時期 心理社会的危機 得られる徳の例
成人期(若年成人期) およそ20〜40歳前後 親密性 vs 孤立(intimacy vs isolation) 愛(love)
壮年期(中年期) およそ40〜64歳前後 生殖性 vs 停滞(generativity vs stagnation) ケア(care)
老年期(後期成人期) およそ65歳以降 自我の統合 vs 絶望(ego integrity vs despair) 英知(wisdom)

*年齢は代表的な教科書・概説書にもとづく一般的な目安であり、文化や個人によって幅があります。


社会的時計としての年齢規範

このような発達段階に見られる年齢規範や年齢期待は、「社会的時計(social clock)」として人生の1つの基準として機能するのです。社会的時計とは、結婚、出産、就職、退職といった重要なライフイベントについて、「だいたいこのくらいの年齢で達成するのが普通(望ましい)」といった文化的なタイムテーブルのことだとされています。 

例えば、人生上のイベントを急がせたり遅らせたり、行動を促したり中断させたりします。私たちは、家族のイベントや職業上のイベントについてのタイミングを、このような年齢規範や年齢期待に沿って「早い」「遅い」「ちょうど良い」といった形で表現すると言われます。

確かに、実際の年齢規範に伴う発達課題は必ずしも厳密なものではないわけですが、年齢規範や社会的時計から見て「早すぎる」場合や「遅すぎる」場合には、ライフイベントが「オンタイム」ではなく「オフタイム」になるため、ストレスや危機的状況への遭遇の確率が高くなったり、次の発達課題において行うべき活動への時間が減少したりするなど、人生において現実的な影響を与えると指摘されています。


レビンソンのライフサイクル論

発達を段階ごとに考えるものとしては、このほか人生の経過を構造的に捉えているレビンソン(Levinson)によるライフサイクル論もあります。レビンソンは、特に成人期の発達に注目し、生活構造の変化という点から人生をいくつかのステージ(あるいは「時代」= era)に分類しています。

レビンソンの理論では、人生全体を大きく

  • 前成人期(preadulthood:乳幼児〜青年期に相当)

  • 成人前期(early adulthood)

  • 中年期(middle adulthood)

  • 老年期(late adulthood)

といった時期に分けることが提案されています(年齢幅には議論や揺れがありますが、おおよそ0〜22歳、17〜45歳、40〜65歳、60歳以降といった目安が示されています)。
ここでは分かりやすくするために、これらを青年期、成人前期、中年期、老年期と呼び、それぞれを人生の春、夏、秋、冬の四季に例えて説明することが多いのです。レビンソンの代表的な著作『The Seasons of a Man’s Life』という書名自体が、この比喩をよく表しています。

そして、これらのステージが変わる際に「移行期(transition)」とされる心理的に不安定となる時期があることに注目しました。たとえば、前成人期から成人前期へ移行する「成人初期移行(early adult transition:17〜22歳頃)」や、「30歳の転機(age-30 transition:28〜33歳頃)」、「中年期移行(midlife transition:40〜45歳頃)」などが挙げられます。

このライフサイクル論によれば、人は安定した時期に生活パターン(生活構造)を確立し維持し、移行期といった心理的危機とその克服の時期を経て、その安定性を取り戻し成長するとされます。つまり、安定期と移行期が交互に現れ、そのたびに生活構造が組み替えられていくというわけです。