ーーーー講義録始めーーーー
中年期の特徴
ここで事例として中年期について取り上げてみたく思います。レビンソンが人生の秋とした中年期、つまり40歳から65歳に相当する時期は、生涯発達研究でも、若年成人期と高齢期のあいだに位置づけられる時期として扱われ、もっとも一般的な年齢の目安も40〜60(あるいは65)歳前後とされています。
生物学的には、すでに成熟に達した身体に、加齢による機能低下や健康リスクの増大が徐々に現れてくる、「成熟」と「老化の始まり」のあいだにある、いくらか柔軟な境界を持った一段階と言われます。
この中年期は、人生の折り返しとして自分のこれまでとこれからを振り返り、極めて内省的で自分自身を再点検する時期になりやすいと指摘されています。
中年期は特に男性にとっては、仕事との関連での出来事、例えば昇進の遅れとか不本意な異動などでストレスを抱える時期と言われてきましたが、近年の研究では、男性だけでなく女性もまた、キャリアの停滞感や家庭・介護負担など、男女それぞれ異なる形で中年期の危機やストレスに直面しうることが示されています。
事例1:40代男性の心理的危機
満足度の低い企業勤務の40代の男性の例です。
この方はバリバリと仕事をし、管理部門でマネージャーとしても認められていました。仕事もできるのですが、1人で何でもこなせるためか、一匹狼のような存在でした。本人はそのことを気にせず、重要な仕事を次々やり遂げていったようです。転職もして給料も上がり、ポジションも上がっていき、大きな仕事の機会も増え、様々な仕事をやり遂げていきました。
しかし、40代半ば位で妙に落ち着かなくなっていたそうです。「何かが違う」「どうも満たされない」「何か足りない」「何かし損ねていることがありそうな気がしてきた」とおっしゃっていました。今の仕事に合わないんではないかと思ったり、どうしようかなぁと悩んだそうです。いろいろ1人で考えたり、友達に相談したりしてもすっきりしない。なんかストレスを感じ、霧が晴れない。それで何とかしたい、どうにかしたい。そんな中でお話を聞くことになりました。
問題の所在
その方にとって何が問題だったのでしょうか。
その方は、今の仕事は楽しい、結果を出しており認められてもいる、家族もいて仲は良い、問題は何もないはずなのですが、何か引っかかるのだそうです。
お話を聞いていくと、社会人になるときに希望する会社と仕事につけなかったんだそうです。そのことが浮上してきました。その方は自分が失敗してしまったと思ったそうです。それでも別の一流会社に入りましたし、バリバリ仕事をして今の立場にあるわけです。でも、失敗したという思いを忘れられない。「自分は失敗した人間だ」「だめな人間だ」という思いが残ったもののようでした。
特に印象的だったのは、この方ご自身が達成した業績や優秀な結果がありますので、そのことのご説明がすごく投げやりな言い方をされていたんですね。自分が上げてきた業績を素直に評価できないんでしょうね。
結末
お話を伺っていく中で、この方が取り得るんだろうなぁと思われる様々な選択肢をお示ししても、結局この方は納得されませんでした。でも、社会人になる際の失敗について焦点が当たったところから、お話が深まっていきました。
その方は、積み残してしまった課題と向き合わずに中年期を迎え、取り組む必要に迫られていたんだと思います。「もう少し自分で考えます」と言って帰られましたが、数ヶ月後、風の便りに聞いたところによると、転職をされてそこで元気に仕事をされているとのことでした。
しかも、最初につけなかった仕事に近いものでした。その方なりの結論が出たのかなと思いました。
男性の場合、健康への関心や体力等の身体的衰えにより中年期を自覚すると言われています。
そのため、中年期には、この事例にあったように、男性にとって転職などの人生をリセットする「最後の大きな機会の一つだ」と感じられることが少なくなく、キャリア研究でも、ミドルエイジでの転職やキャリア転換が、自分の価値観や健康、家族とのバランスを見直す重要な契機として語られることが報告されています。
この方も中年期になって人生を振り返り、もう一度自分の本来やりたい仕事につきたいという結論を得たのでしょう。
いわゆる心残り、やり残した仕事、未完の行為に対応したことで、ある種の納得をされたということなのでしょうね。
補足図:中年期の特徴(ごく簡単な整理)
| 視点 | 主な内容(代表的な整理) |
|---|---|
| 年齢的特徴 | おおよそ40〜60(65)歳前後。若年成人期と高齢期のあいだに位置づけられる。 |
| 生物学的特徴 | 視力・体力の低下、生活習慣病リスクの増大など、「老化のサイン」が徐々に表れはじめる。 |
| 心理的特徴 | 人生の折り返しを意識し、これまでの選択や今後の生き方を再評価する内省が強まる。いわゆる「中年期の危機」が顕在化する場合もある。 |
| 社会的特徴 | 仕事・家族・親の介護など多重の役割を担いやすい。キャリアの停滞や転機、子どもの独立、親の老いなどが重なりやすい。 |
