ーーーー講義録始めーーーー
成人期の発達研究
成人期の発達に関する研究は、主に心理学の領域で蓄積されてきた研究です。ただし、近年では社会学や教育学、老年学など複数の学問分野が関わっており、学際的な研究領域として広がっています。
これらの研究は、個人の内部の変化に注目し、時系列に沿ったパターンとして発達をとらえ、しばしば定められた発達段階という枠組みで説明してきました。一方で、必ずしもすべての研究が「明確に年齢と一対一で対応する段階」を前提としているわけではなく、発達をより連続的・多方向的な変化として理解する理論も多く提案されています。
とはいえ、伝統的な発達理論の多くは、特定の年齢と対応する代表的な発達課題や役割期待を示し、成人期の発達を理解するための一つの目安を与えてきたといえます。
ハヴィガーストの発達課題
まずは、心理学の中で代表とされる「発達段階」としてとらえる理論をいくつか紹介したいと思います。その一つが、ハヴィガースト(Robert J. Havighurst)の発達課題の理論です。
ハヴィガーストは、『Developmental Tasks and Education』(1972)において、人の一生を乳幼児期、児童期、青年期、成人初期(early adulthood)、中年期(middle age)、老年期・後年期(later maturity)といった時期に区分し、それぞれの時期に時間的順序性をもって「学習すべき発達課題」が存在すると考えました。
彼は、発達課題を社会的成長の目安として捉え、その時期にふさわしい課題を達成すれば、個人は幸福になり、その後の課題も成功しやすくなると述べています。逆に、その課題の達成に失敗すると、個人は不幸になり、社会からの承認を得にくくなり、その後の課題達成も困難になると考えました。この点は、ハヴィガースト自身が「発達課題とは、ある人生の時期に生じ、その達成が幸福と後続課題の成功につながり、失敗は不幸・社会的不承認・後続課題の困難をもたらす課題である」と定義していることと対応しています。
発達課題とは、言葉通り「発達するうえでの課題」であり、その人の年齢や人生段階に応じて人生でクリアすべきことの一つの目安だったんでしょうね。ハヴィガーストはさらに、発達課題には
-
身体的成熟から生じる課題
-
文化や社会からの期待・要求から生じる課題
-
個人の価値観や志向から生じる課題
という三つの主な源泉があると整理しており、個人の内的要因と社会的要因の両方を踏まえて、発達を理解しようとしました。
参考図:ハヴィガーストの発達段階と発達課題(ごく一部の例)
講義内容の理解を補うために、成人期以降に関する代表的な発達課題を、ハヴィガーストの整理にもとづき、ごく簡単にまとめておきます(原典および教科書的整理からの要約)。
| 人生段階の一例 | 年齢の目安 | 発達課題の例(抜粋) |
|---|---|---|
| 青年期・成人初期 | 18〜30歳前後 | 配偶者を選ぶ/パートナーと共に暮らす/家族を始める/職業生活を開始する/市民的責任を担い始める など |
| 中年期 | 30〜60歳前後 | 十代の子どもを責任ある幸せな大人に育てる/成人としての社会的・市民的責任を果たす/経済水準を維持する/中年期の身体的変化に適応する/余暇活動を発展させる など |
| 老年期・後年期 | 60歳以降 | 体力や健康の低下に適応する/退職と所得減少に適応する/配偶者の死に対処する/同年代の仲間とのつながりを築く/満足できる生活環境を整える など |
(※あくまで代表例であり、文化や時代によって内容は変化し得るとされています。)
