ーーーー講義録始めーーーー
賃金の設計基準 ─ 内部公平性と外部競争性、そして職能給・職務給の比較
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まず最初に、賃金の設計基準というものを取り上げて、その設計基準という考え方から、職能給と職務給、この2つを比較しておきたいと思います。
賃金の設計基準として、代表的には2つの考え方があります。1つは内部公平性、もう1つは外部競争性というものです。
内部公平性というのは、会社などの組織の中で個人の賃金に差をつける場合に、その差が組織内でみて納得的で公平につけられているか、ということになります。通常、責任の重い仕事や難しい仕事を担う人の賃金が高く、新入社員などの賃金が低いということはあり得るわけですが、その差のつけ方が社内の基準から見て公平であるか、これが内部公平性ということになります。
一方、外部競争性というのは、自社の賃金が労働市場における他社と比べて競争力を持っているかということになります。つまり、他社に比べて魅力的な賃金水準であるか、あるいは市場相場に照らして見劣りしないかということが、この外部競争性です。
企業は、内部公平性と外部競争性に気をつけながら賃金制度を設計していかなければいけません。この視点を持って、職能給と職務給というのを見ていきたいと思います。
職能給というのは、いわゆる日本企業で発達してきた能力主義的な賃金制度ということになります。これに対して職務給は、欧米企業で広くみられてきた、仕事に基づく賃金の考え方だということになります。
職務給の考え方というのは結構シンプルで分かりやすいですね。従業員の能力や特徴そのものではなく、仕事内容や役割の重要さ、責任の重さなどに基づいて賃金が決まるということになります。ですから、難しい仕事をしている人、責任の重い人の賃金が高くなり、相対的に簡単な仕事をしている人、責任の軽い人は賃金が低くなるということになります。上のポストに昇進すれば、一般に賃金も高くなりやすいということになるわけです。
一方、職能給は、仕事そのものではなく、個人の能力を基準に賃金が決まるということになります。この能力というのが職務遂行能力ということで、入社以来の人事考課の積み重ねや経験の蓄積、場合によっては昇格年次や試験なども踏まえながら、本人がどの程度の職務遂行能力を持つと判断されるかが、職能資格などの形で表されるわけです。ですから、長い期間をかけて能力を高めていくことによって賃金が上がっていく傾向があるわけですね。したがって、職務給に比べて、仕事と賃金との関係性が相対的に弱いということになります。

こうした職務給と職能給のメリット・デメリットについても、もう少し考えてみましょう。
職務給の場合、仕事で賃金が決まりますので、職務を基準とした公平性は実現されやすいです。非常に分かりやすいですね。ところが、職務の変更が処遇の変更に結びつきやすいため、配置転換を行う際には、その職務内容や賃金との関係を丁寧に設計する必要があります。したがって、配置転換には慎重になりやすいという面があります。
一方、職能給は、仕事と賃金が直接的には結びついていないため、日本企業で伝統的に行われてきたジョブ・ローテーションや配置転換と親和的です。なおかつ、長く勤めながら能力を高めることによって賃金が上がりやすいということですので、長期勤続へのインセンティブになりやすいということになります。ただ、こうした職能給の特徴というのは、年功的な運用に陥りやすいというデメリットがある、こういうことに注意が必要でしょう。
さて、先ほど言いました内部公平性と外部競争性という基準からこれらを見たらどうでしょうか。
内部公平性は、組織内の賃金格差を納得的に保つための基準ということですが、職務給は仕事によって、職能給は能力によって、言い換えるならば経験や熟練も踏まえて決めるということになっていました。ですので、仕事を基準に公平性を見るのか、能力や経験の蓄積をもって公平と見るのか、この辺が日本企業と欧米企業との考え方の違いとして説明されてきた、ということが言えるでしょう。
もう1つの外部競争性ですけれども、こちらの方は、伝統的には職務給の世界、すなわち欧米企業の方で相対的に強く意識されてきたと言えるでしょう。外部労働市場が発達している場合には、労働市場における自社の賃金の競争力は意識されやすいですし、職務給であれば、同じような仕事をしている場合に、他社と比べて賃金が高いのか安いのかも比較しやすいわけです。その意味で、外部競争性は職務給の世界の方が強く意識されやすかったと言えます。
もっとも、日本企業において外部競争性がまったく意識されてこなかったというわけではありません。従来は、長期雇用や内部育成を前提とした仕組みの下で、相対的に内部公平性の方が重視されやすかったと見る方が適切でしょう。しかし近年では、人手不足や専門人材の獲得競争の強まりの中で、日本企業でも外部競争性への意識は高まってきていると言えます。
