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老年期の心理的特徴と健康課題(発達心理学特論第14回)#放送大学講義録

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老年期の心理的特徴を検討する場合、先ほど見てきたような発達課題にも示される通り、身体的な老いの影響を無視することはできません。ここでは、老化による心身への影響を検討し、老年期のパーソナリティーの特徴と老年期の社会への適応に関する理論を考察したいと思います。

年齢を取るに従い、若かった頃よりも心身の機能は低下します。これを加齢または老化と言います。加齢は受精から死までの生体の変化全てを指し、老化は成熟期以後の生体の変化を指します。

老化の要素として、形態要素(身長、体重、姿勢の変化)、運動学的要素(筋力、筋持久力、筋パワー、平衡性、協調性、柔軟性)、呼吸循環要素(換気量、排気量、心拍数、血圧、心拍質量)、精神神経要素(知能、神経伝達速度)などがあります。加齢に伴いこれらは低下しますが、その低下の仕方は個人差によって異なります。

さて、近年、ロコモティブシンドローム(ロコモ)、サルコペニア、フレイルという用語が、高齢者が介護を要する状態に移行する危険性を指摘するものとして取り上げられています。ロコモティブシンドローム(運動器症候群)は、運動器を構成する骨、軟骨、椎間板、筋肉、靭帯、神経系の各要素の疾患やその危険性を含んでいます。具体的な症状は、膝や腰の痛み、姿勢の悪化、膝の変形、歩行の遅れ、つまずきやすさなどがあります。

ロコモの可能性を考える自己チェックとして、片足立ちで靴下が履けない、家の中でつまずいたり滑ったりする、階段を登るのに手すりが必要、横断歩道を青信号で渡りきれない、15分続けて歩けない、2キログラム程度の買い物を持ち帰るのが困難、家事(掃除機の使用、布団の上げ下ろしなど)が困難である、といった7項目があります。

サルコペニアは、身体的な障害や生活の質の低下および死亡などの有害な転帰のリスクを伴うもので、進行性および全身性の骨格筋量および筋力の低下を特徴とする症候群です。その分類と段階は、加齢以外に原因が明らかでない場合は一次性、加齢以外の原因が明らかな場合は二次性とされます。しかし、日本老年医学会は、多くの高齢者の場合、サルコペニアの原因は多要因であるため、個人が一次性サルコペニアか二次性サルコペニアかを断定することは困難であるとしています。そのため、サルコペニアは多面的な老年症候群とされています。

フレイルは、ストレスに対する回復力が低下した状態を示す英語の「フレイルティ」の形容詞「フレイル」をそのままカタカナ表記したものです。フレイルは身体障害を含む考え方と、身体障害とは区別して全般的な脆弱状態と捉える考え方があり、後者の考え方が増えています。フレイルは健康寿命の範疇と考えられ、健康から要支援、要介護状態に移行する間に位置し、要支援、要介護の危険度が高い状態と位置づけられています。また、フレイルは身体的健康のみならず、精神的健康にも関連することが指摘されています。

以上のように、身体的能力や身体機能、それに伴う健康は加齢に伴い低下します。一方、追跡調査を行うコホート研究において、過去の高齢者に比べて近年の高齢者の身体機能が向上していると指摘されています。それに関連する日常生活機能も向上していると報告されています。