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ところで、この博物館経営論の第1回は「博物館経営論の現在地」というタイトルです。これは佐々木がつけたのですが、印刷教材でも説明したように、1997年度から必須科目である博物館学の各論の1つとして博物館経営論が一単位として加わり、その後2012年度からは単独の科目となり、現在の二単位となりました。
つまり、博物館経営論は、学芸員資格科目の中で新しく加わった科目であり、科目としての改善点や今後検討すべきことがあると私は考えています。そのため、これらを考える場として、「博物館経営論の現状、現在地は一体どこなのか」というタイトルにしました。
さて、平井先生は和光大学の現職教授であり、大学院生時代も経営学を専門にされてきました。そのうえで、現行の博物館経営論の構成要素や、その中で使われている用語や概念について、経営学の立場から疑問や違和感を感じることがあるのではないかと思いますが、率直にお聞かせいただけますでしょうか。
わかりました。私は博物館経営論を研究していますが、その前に経営学者です。率直に言いますと、やはり違和感はかなりあります。
かなりありますか。はい。
その最たる例として、いまだに「経営」ではなく「博物館運営」という言葉が使われることが挙げられます。最近は少なくなったとは思いますが、まだ散見されます。運営という言葉は、まず予算があり、その予算を効率的・効果的に使って目的を達成するというイメージがあります。まさに行政や公的機関のそれだと思います。
一方で、経営は予算ありきではなく、資金調達、つまり最初に使うお金の調達から始まります。事業を実施するための資源を獲得し、それを適切に分配し、価値を創造し、利益を得て再投資していくという循環です。これはマネジメントサイクルと呼ばれるものです。
大多数が公立館である日本では、無意識的に「経営」という言葉を避けているように感じますが、非営利組織である博物館にとっても「経営」は非常に重要になってきます。