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最後に5号ですが、「その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき」と規定されています。これは、1号から4号に該当しない場合であっても、夫婦間の婚姻関係が破綻したと認定できる場合に離婚を認めるものです。
5号に該当するためには、客観的な破綻状態、つまり円満な婚姻関係への回復やその維持が困難であると客観的に判断される状態の存在が必要となります。考慮要素としては、身体的、性的、精神的、経済的暴力、経済的破綻、家庭を顧みないこと、配偶者の親族との不和、犯罪行為、性格や価値観の不一致、性生活の不一致など、さまざまな要素が考慮されます。なお、別居の継続は婚姻関係破綻の表れと評価することができます。実務上は、5年間の別居が客観的破綻状態を認定する目安となっています。
ここまで、民法770条1項各号に列挙されている離婚原因について見てきました。では、仮に夫婦間に離婚原因が存在するとして、その原因を作った側が離婚を求めることはできるのでしょうか。
離婚原因を作り、婚姻関係を破綻させた責任のある夫婦の一方を「有責配偶者」と言います。最高裁昭和27年2月19日判決では、有責配偶者からの請求が認められるならば、被害者側の配偶者は「踏んだり蹴ったり」である。法はこのような不当な行為を許すものではないとして、離婚を認めませんでした。この判例のように、婚姻関係が破綻していても、その原因を作り出した配偶者からの離婚請求を認めないという考え方を「消極的破綻主義」と言います。
しかしながら、裁判所が離婚を認めないからといって、有責配偶者とその配偶者の婚姻関係が良好化するわけではありません。ただ形骸化した婚姻関係が継続するだけとなってしまいます。
そのような問題意識のもとで、最高裁大法廷昭和62年9月2日判決では、「夫婦としての共同生活の実態を欠くようになり、その回復の見込みが全くない状態に至った場合には、当該婚姻はもはや社会生活上の実質的基礎を失っているものというべきであり、その状態でなお戸籍上だけの婚姻を存続させることはかえって不自然である」として、3つの要件を満たした場合には、有責配偶者からの請求であっても離婚が認められると判例を変更しました。
その3つの要件とは、1つ目は、夫婦の別居が両当事者の年齢および同居期間との対比において相当の長期間に及んでいること。2つ目は、その夫婦間に未成熟の子が存在しないこと。3つ目は、相手方配偶者が離婚により精神的、社会的、経済的に極めて過酷な状態に置かれるなど、離婚請求を認めることが著しく社会正義に反すると言えるような特段の事情がないことです。
この判例のように、婚姻関係が破綻していれば、その原因を作り出した配偶者、つまり有責配偶者からの離婚請求も認めるという考え方を「積極的破綻主義」と言います。