ーーーー講義録始めーーーー
ラクターゼ持続性の民族差と「アイスマン」ミイラの発見
一方、アジア系やアフリカ系の多くの民族では、成人になるとラクターゼ活性が低下し、乳糖を消化しにくい乳糖不耐症の割合が高い傾向があります。これは、食文化が遺伝子に選択圧をかける一例です。
「アイスマン(エッツィ)」のミイラと遺伝子解析
1991年、イタリア・オーツィタール(Ötztal)アルプスで、約5,300年前に死亡したとされるミイラ「アイスマン(Ötzi)」が発見されました。推定身長165cm、体重約50kg、年齢約46歳とされ、当時としては平均的な体格です。
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遺伝子解析の結果、アイスマンはラクターゼ持続性遺伝子を有しており、成人後も乳糖を分解できる体質だったことが分かりました。
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この変異は約7,500年前にバルカン半島付近で起こったと考えられ、ヨーロッパ北部に広がった家畜乳文化とともに広まったものです。
変異は他地域にも
ラクターゼ持続性変異はヨーロッパ系だけでなく、アフリカのいくつかの牧畜民集団や中東・南アジアの一部でも独立に出現しています。逆に、アジア東部の農耕民族では乳製品が主食文化に定着しなかったため、この変異はほとんど広がりませんでした。
食文化がわずか数千年の間に遺伝子分布を変えるほど強い選択圧を及ぼす例として、乳糖分解能力の民族差は、人と食の深い結びつきを示しています。