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ポール・ウィリスと反学校文化の研究(教育文化の社会学第7回)#放送大学講義録

ーーーー講義録始めーーーー

 

反学校文化の研究:ポール・ウィリス『ハマータウンの野郎ども』

反学校文化の典型例としてよく参照されるのが、イギリスの教育社会学者ポール・ウィリスによる著書『ハマータウンの野郎ども』です。ウィリスは、イギリスの工業都市にあるセカンダリーモダンスクール(公立高校)に通う生徒の中でも、特に学業に背を向けた男子生徒12人に焦点を当て、彼らの学校や教師に対する反抗的な態度や行動が持つ意味を詳細に分析しています。


労働者階級の生徒と学校文化

この学校に通う生徒たちの多くは労働者階級の出身であり、卒業後は地元の工場で父親と同じように労働者として働くのが一般的な進路でした。生徒の中には学校の価値を信奉して真面目に学校生活を送る者もいましたが、一方で「ラッズ(Lads)」と呼ばれる12人の男子生徒たちは学校に対して反抗的な態度を取り、真面目な生徒を軽蔑的に「イヤオールズ(Ear’oles)」と呼んでいました。


ウィリスの分析:自律的な文化としての反抗

ウィリスは、ラッズがなぜ反抗的な行動や態度を取るのかを彼らの内面に即して分析しました。その結果、ラッズの態度や行動は単に学業が不得手で落ちこぼれているからではなく、学校が要求する「将来のために真面目に勉強する」という中産階級的な価値観や欲望を拒否し、自分たち自身で「今を生きる意味」を見出そうとする自律的な文化であることを描き出しています。


労働者文化と社会階層の再生産

しかし一方で、ウィリスはラッズの反学校文化が父親たちが属する労働者文化と呼応していることも指摘しています。このため、結果的に彼らは卒業後に父親と同じ労働世界に入り、社会の階層構造を維持する役割を果たしてしまうという皮肉な結果をもたらしています。この点は、反抗的な行動が同時に社会構造の再生産にも寄与するという矛盾を示していると言えるでしょう。