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感染症と人類の歴史への影響
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)も含め、感染症は人類の歴史に大きな影響を与えてきました。『Diseases: 人類を襲った3つの病魔』という本では、取り上げられている30の病気のうち、実に27が感染症です。このように、人類の長い歴史の中で感染症は常に大きな脅威であり、現在でもその脅威は続いています。代表的なものとして、教材ではペスト、コレラ、インフルエンザ、結核、マラリア、新型コロナウイルス感染症が取り上げられています。
ペストは人類史上で最も死者が多かった疫病の一つであり、ペスト菌(Yersinia pestis)が原因菌です。ネズミなど齧歯類がペスト菌を保有し、ネズミに寄生するノミを媒介として人に感染し、大流行を引き起こします。また、感染した人が肺ペストにかかった場合、大量のペスト菌が含まれているため、咳による飛沫感染も発生します。
ペストの世界的な流行が記録されているのは、541年から544年にかけて東ローマ帝国で発生した『ユスティニアヌスのペスト』です。エジプトからヨーロッパに広がり、イスタンブールでは1日に1万人が死亡したと言われています。この当時、地域によっては人口の4分の1が死亡しました。次いでペスト、別名黒死病が中世ヨーロッパで大流行し、1346年または1348年からヨーロッパで流行し、ヨーロッパだけで1353年までの数年間で少なくとも2500万人が死亡したと推計されています。当時のヨーロッパの人口の3分の1以上が死亡しました。
この時代は、日本では足利尊氏が室町幕府を起こし、後醍醐天皇が難聴を起こし、京都の北朝と対立していた南北朝時代です。ヨーロッパでペストが大流行した頃、日本では有名な小説『デカメロン』がこの時期に書かれました。『デカメロン』は、ペストから避難するために屋敷に閉じこもったフィレンツェの男女10名が、10日間それぞれ一つずつ話をする物語であり、当時のフィレンツェの状況が描写されています。
19世紀の半ばにペストの流行が中国で始まり、東南アジアの各地に広がり、世界的な大流行となりました。1894年、香港でペストが大流行した際には、フランス人細菌学者アレクサンドル・イエルサン氏とともに北里柴三郎先生が原因究明のために派遣されました。また、日本でもペストの研究に貢献した科学者たちが感染の拡大防止と治療法の開発に尽力しました。緒方洪庵先生は19世紀前半に活躍した医師であり、彼の弟子や後継者たちが明治時代にペストの研究を引き継ぎました。例えば、北里柴三郎先生は日本における感染症研究の先駆者として、ペストの原因菌の特定や感染経路の解明に重要な役割を果たしました。