ーーーー講義録始めーーーー
咀嚼の仕組みと健康効果
咀嚼(そしゃく)とは「食物を噛み砕く」ことで、嚥下(えんげ)とともに消化吸収の最初の段階を担います。以下、そのメカニズムと全身への効果をご説明します。
1. 唾液分泌の促進
-
咀嚼回数が増えると、耳下腺・顎下腺・舌下腺の三大唾液腺が刺激を受け、唾液の分泌量が増加します。
-
唾液にはムチン(粘性タンパク質)やα‐アミラーゼ(デンプン分解酵素)が含まれ、口腔内での物理的・化学的消化を助けます。
-
ムチンの粘度により、食塊(ボーラス)が滑らかになり、口腔粘膜の保護や抗菌作用も発揮されます。
2. 消化吸収の効率化
-
唾液中のα‐アミラーゼがデンプンを部分分解し、食物の口腔内滞在中に化学的消化が進むことで、消化吸収率が高まります。
-
食塊がゆっくり食道へ送られるため、急激な血糖上昇を抑制し、インスリン分泌を穏やかにします。
3. 脳機能への好影響
-
咀嚼運動は、咀嚼筋や顎関節だけでなく、脳幹や大脳皮質を刺激します。
-
これにより、記憶力向上や注意力改善、ストレス緩和といった認知機能の維持・向上効果が報告されています。
4. 高齢者の健康長寿への寄与
-
高齢者では、咀嚼能力の低下が栄養摂取量の減少や誤嚥(ごえん)リスクを招き、健康寿命を短縮させる要因となります。
-
歯を十分に保有し、咀嚼機能を維持することで、全身の健康維持および介護予防にもつながります。
咀嚼の主な健康効果一覧
-
唾液分泌の促進
-
食塊形成の最適化
-
消化管ホルモン分泌の活性化
-
記憶力・注意力の向上
-
ストレス緩和
-
血糖値上昇の抑制
-
口腔粘膜の保護・抗菌作用