ーーーー講義録始めーーーー
嚥下の仕組みと嚥下障害の要因
嚥下(えんげ)とは
嚥下とは、口腔から咽頭・食道を経て胃へ食塊(ボーラス)を送り込む一連の動作を指します。食道まで安全に食物を送るためには、咀嚼に続く「口腔相」「咽頭相」「食道相」の3相が協調し、脳幹にある嚥下中枢の指令で無意識に制御されます。
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口腔相:咀嚼済みの食塊を舌で咽頭まで送り出す段階
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咽頭相:軟口蓋の挙上で鼻腔を閉じ、喉頭蓋が気管入口を覆い、声門が閉じることで気道を防御しつつ、咽頭筋が収縮して食塊を食道入口へ送る段階
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食道相:食道の蠕動(ぜんどう)運動で食塊を胃へ送る段階
誤嚥性肺炎と死因順位
高齢化に伴い、誤嚥性肺炎(嚥下障害による誤嚥が原因の肺炎)が増加しています。厚生労働省の死因順位(最新年)では、
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悪性新生物(がん)
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心疾患
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老衰
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脳血管疾患
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肺炎(その大部分が誤嚥性肺炎)
と続きます。嚥下機能の低下が高齢者の肺炎リスクを高める大きな要因です。
嚥下障害を起こす主な疾患
嚥下障害の原因として最も多いのは脳卒中(約60%)で、具体的には、
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脳梗塞
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脳出血
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くも膜下出血
などに続発する嚥下筋群の運動制御障害です。脳幹や皮質の損傷が、嚥下中枢や嚥下関連筋の協調運動を阻害します。
嚥下障害への対応
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嚥下評価:嚥下検査(嚥下造影や嚥下内視鏡検査)で安全性を確認
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食形態の工夫:ゼリー食や刻み食など、咀嚼・嚥下しやすい介護食の導入
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リハビリテーション:嚥下体操や口腔機能訓練で嚥下筋を強化
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環境整備:姿勢保持や食事時の声かけで誤嚥リスクを低減