ーーーー講義録始めーーーー
そこで、道徳とは何かを考える際には、一見すると相反する二つの側面があることを押さえておく必要があります。
まず一つ目は、道徳を「社会常識やマナー」など、その社会で承認された規範――つまり個人の外部にあるルール――として捉える見方です。この場合、道徳は法律のような強制力は伴わないものの、「社会で〈こうあるべき〉と合意された行動基準」を意味します。
他方で、道徳は「良心」や「倫理」といった個人の内面に宿る原理――内面的規範――としても理解されます。この内面的な原理はしばしば「道徳性」や「良心性」と呼ばれ、人の心の中で〈善〉を判断する基盤となるものです。
また、『広辞苑』には「道徳」の語源として「人の道」という表現が紹介されており、「人として行うべき振る舞い」を示す言葉として使われます。ここでいう「人」とは、人間を他の動物と区別する普遍的な特性を指し、「人間らしさ」を意味します。
しかし、注意しなければならないのは、「社会で承認された規範」は時代や文化によって変化し得るため、必ずしも普遍的とは言えない点です。過去には常識とされた行為が、後の時代に誤りとされる例も少なくありません。価値観が多様化した現代では、「何が善か」「何が正しいか」は個人の価値観によって異なる、という見方も尊重されます。
そこで問いたいのは、
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個人の内面的原理だけを重視してよいのか?
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社会的合意に基づく規範を外部から押し付けてもよいのか?
この二つを切り離して扱い、どちらの道徳観を教育の中でどのように位置づけるかを明確にすることが、これからの道徳教育において不可欠であると言えるでしょう。