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日本文化に根ざす普遍的道徳(道徳教育の理念と実践第1回)#放送大学講義録

ーーーー講義録始めーーーー

 

しかし、人間にとって〈道〉には普遍的な側面と、日本人が日本の文化や宗教思想によって育んできた独自の〈道〉とがあります。哲学者・西田幾多郎は、日本人の道徳性は日本文化の深層に根ざし、その形成に大きな影響を与えたと論じています。

では、こうした文化や社会の違いを超えて、人間は本能だけで行動する動物ではなく、理性によって自らの行為を選択する自由を持つ存在です。しかし同時に、理性だけで全てを制御できるわけではありません。人間の自由とは、あらかじめ定められた約束や規範を忠実に実行できる能力を含むからです。

人間はいくつもの選択肢の間で悩み、誤りを犯し、謝罪する有限な存在です。その自由な意志によって「よかれ」と思う行為を自ら決定し、誤りを乗り越えようとするのが、人間らしさ――すなわち道徳性の核心と言えるでしょう。

また、日本の伝統的な〈道〉観では、自然と人間を対立させず、幽玄の美学を通じて「この世の迷いや悩みのなかでどう生きるか」を問い続けます。理想と現実、自己と他者、愛する者との関わり──人間の営みを支えるのは、個人の内面にも社会の外面にも存在する「道徳」というシステムなのです。

ここで「道徳」という語は、本来「土地の生活様式」を意味し、やがて「人の性格・人柄」や「その土地で生きる人々の暮らしぶり」をも指すようになりました。このように、個人の内面的原理と社会的規範──二つの〈道〉は相互に関わり合いながら、人間の生き方を支えているのです。