ーーーー講義録始めーーーー
国際社会において、武力紛争は依然として発生しています。本講では、以下の点について解説します。
-
武力行使禁止と正当化要件(jus ad bellum)
-
国際法は、国連憲章第2条4項により一方的な武力行使を原則禁止しています。しかし、集団的自衛権や国連安全保障理事会決議に基づく武力行使は例外として認められます。
-
武力紛争の発生前には、「武力行使が国際法上許容されるかどうか」を判断するため、正当防衛や集団的自衛権などの要件を検討します。
-
-
武力紛争法(国際人道法、jus in bello)の適用範囲
-
一旦武力紛争が発生すると、国際人道法(武力紛争法)が適用されます。これは、武力紛争の遂行方法を規律し、戦闘によって生じる被害を最小限に抑え、民間人や負傷者・捕虜など紛争の犠牲者を保護することを目的としています。
-
国際人道法には、ハーグ陸戦条約(1899年・1907年)やジュネーヴ諸条約(1949年)、および追加議定書(1977年)が含まれます。
-
-
国際紛争と内戦(非国際的武力紛争)の区別
-
国際的武力紛争は、国家間の武力衝突を指し、内戦や反政府勢力との衝突は非国際的武力紛争として区別されます。両者とも国際人道法が適用されますが、適用条文や保護水準に若干の相違があります。
-
-
「戦時国際法」と「平時国際法」の歴史的区別
-
20世紀初頭までは、戦時には「戦時国際法(ius belli)」、平時には「平時国際法(ius gentium)」が別個に運用されていました。
-
現代では武力行使自体が禁止されているため、「戦時」と「平時」を分ける考え方ではなく、武力紛争の有無に応じて適用される条規群として「武力紛争法/国際人道法」が用いられます。
-
-
国際人権法の紛争時適用
-
第二次世界大戦後、人権保護の国際的仕組みが発展した結果、国際人権法は武力紛争時にも引き続き適用されることが確認されています。
-
2004年の国際司法裁判所勧告的意見「パレスチナ占領地域における壁建設事件」では、国際人権法が「国際人道法と併存して武力紛争時にも適用される特別法」であることが明示されました。
-
-
中立国の地位
-
武力紛争に参加しない中立国家は、紛争当事国双方との関係において一定の権利・義務を負います。具体的には自国領内での軍需品輸送禁止や戦争捕虜の取り扱い等が規律されます。
-
こうした中立の規定も、初期のハーグ条約から現代の国際人道法に至るまで、基本的に同様の原則が受け継がれています。
-
以上のように、現代の国際法は「戦時/平時」の二分を超えて、武力行使の正当性(jus ad bellum)と武力紛争中の行動規範(jus in bello)を明確に区別しつつ、相互に補完する体系を構築しています。




