ーーーー講義録始めーーーー
次に、武力紛争犠牲者の保護制度について説明します。
1. 保護対象のカテゴリーと適用条約
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負傷者・病者(陸上・海上)
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陸上では第一ジュネーヴ条約、海上では第二ジュネーヴ条約が適用されます。
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海上における軍隊の負傷者、病者及び難船者(shipwrecked)を保護する規定が第二ジュネーヴ条約にあります。
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捕虜(戦闘員)
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第三ジュネーヴ条約が正規軍及び民兵・義勇兵団等の戦闘員資格を定め、捕虜待遇(POW status)を保障します。
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文民(civilian)
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第四ジュネーヴ条約が文民を攻撃から保護し、拘束時は民間人拘留者(internees)として扱う規定を置きます。
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文民が「敵対行為に直接参加(direct participation)」した場合、一時的に交戦員資格を失う(回転ドア現象)。
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戦闘外者(hors de combat)
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ハーグ陸戦規則及びジュネーヴ条約は「戦闘外に置かれた者」を特別に保護します。
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医療要員・宗教要員
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第一~四ジュネーヴ条約は兵站や文民保護の医療・宗教要員を攻撃禁止対象に定め、専門標章の使用を認めます。
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準軍事組織・警察・PMC
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民兵、義勇兵団及びその他の組織された抵抗運動の構成員は、1907年ハーグ陸戦条約付属の陸戦の法規慣例に関する規則第1条および第三ジュネーヴ条約第4条A(2)の四要件を満たせば戦闘員資格を有します。
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私的軍事会社(PMC)の構成員やテロリストは、これら要件を欠く場合「違法戦闘員」とされ、捕虜扱いを受けません。
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2. 戦闘員資格要件
以下の四要件を全て満たす非正規戦闘集団の構成員も戦闘員(combatant)とされます(ハーグ規則第1条、第三ジュネーヴ条約第4条A(2))。
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責任ある指揮官の下に行動すること
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遠方から識別しうる固着の特殊識別標章を有すること
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武器を公然と携帯すること
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武力紛争法(国際人道法)を遵守すること
民族解放運動への適用
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AP I第1条4項は、「植民地支配および外国の占領に対する人民の戦い並びに人種差別体制に対する人民の戦い」を国際的武力紛争とみなし、AP I第44条第3項の緩和要件のもと戦闘員資格を認めます。
3. 無差別攻撃禁止と区別の原則
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AP I第51条第4項は「無差別攻撃」を禁止し、軍事目標と民用物(civilian objects)の区別義務(Distinction)を強調します。
4. 比例の原則(Proportionality)
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AP I第51条第5項・第57条は、予期される具体的かつ直接的な軍事的利益と比較して「過度の文民の死傷又は民用物の損害」を避けるべきと定めます。
5. 予防の原則(Precautions)
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AP I第57条は、攻撃前後に文民・文民物への被害を最小化するための「予防措置」を義務づけます。
6. 非国際的武力紛争における保護
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共通第3条および1977年追加議定書第二議定書(AP II)は、国家軍と組織化武装集団間及び武装集団相互間の内戦にも、文民保護・戦闘員資格要件を適用します。
7. 保護の重複と交錯
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同一人物が複数カテゴリーに該当する場合、最も有利な待遇原則が適用され、慣習国際法としても確立しています。
8. 国際刑事法との関係
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保護規定違反は戦争犯罪を構成し、ICCや各国法廷で訴追されます。
以上により、武力紛争犠牲者はその地位や状況に応じ、条約法・慣習法・国際刑事法が交錯する中で包括的に保護されます。




