ーーーー講義録始めーーーー
では、わが国が置かれている状況について、もう少し具体的に見ていくことにしましょう。
共働き世帯数の推移
まず、共働き世帯数の推移について見ていきます。
赤い線は「夫が雇用者で妻が無業(非労働力人口)」の世帯、いわゆる専業主婦世帯を示しています。青い線は雇用者同士の共働き世帯です。
この統計を見て分かるように、「夫が働き妻が家庭を守る」という家庭モデルが主流であったのは昭和の時代までです。
状況が大きく転換したのは平成期であり、1997年以降は共働き世帯が専業主婦世帯を上回るようになりました。
2017年のデータによると、共働き世帯は1,188万世帯、専業主婦世帯は641万世帯となっています(総務省『就業構造基本調査』2017)。
この背景には、女性の社会進出の進展に加え、非正規雇用の増加や経済的要因など、複数の要素が影響していると考えられます。いずれにしても、共働きが日本社会の主流となったことは明らかです。
出生数と合計特殊出生率の推移
次に、出生数と合計特殊出生率の推移を見ていきましょう。
2019年の出生数は86万5,234人で、当時としては過去最少を記録しました。合計特殊出生率は1.36で、これは15〜49歳の女性1人が生涯に産む子どもの平均数を示しています。
グラフを見ると、第1次ベビーブーム(1947〜49年)と第2次ベビーブーム(1971〜74年)を境に、出生数が長期的に減少していることがわかります。
国際的に見ると、日本の出生率は極めて低水準です。国連の統計(World Population Prospects 2019)によれば、2018年時点で日本は224カ国中184位でした。
つまり、日本の少子化は世界的にも深刻なレベルにあります。
今後、日本で急激に出生数が増加することは考えにくいですが、「子どもを持ちたい」と願う家庭が実際に子どもを持てる社会環境を整えることが求められています。これは、人口減少社会における持続可能性の根幹をなす課題です。
労働生産性の国際比較
次に、労働生産性の国際比較について見ていきます。
労働生産性とは、労働者1人あたり、あるいは1時間あたりの経済的成果(付加価値額)を示す指標です。
2017年の日本の時間当たり労働生産性は47.5ドルで、OECD加盟36カ国中20位でした(日本生産性本部『労働生産性の国際比較2020年版』)。
上位国を見ると、1位はアイルランド、2位はルクセンブルクです。
アイルランドは法人税率の低さにより多国籍企業を誘致し、GDPを押し上げていることが背景にあります。ルクセンブルクは金融・不動産・鉄鋼業など労働生産性の高い産業構成を持つため、高水準を維持しています。
一方、G7諸国(アメリカ、フランス、ドイツ、イタリア、カナダ、イギリス、日本)で比較すると、日本は常に最下位付近に位置しています。1980年代以降、日本の順位は概ね19〜20位で推移してきました。
国際比較の観点から見ると、日本は生活水準や社会インフラが整備された**「暮らしやすい国」**である反面、労働時間が長く、効率的な働き方の改善余地が大きい国とも言えます。
労働生産性のみで働き方を評価することは適切ではありませんが、長時間労働の是正と仕事と家庭生活の両立の観点からは、効率性を高めて余暇・家庭の時間を確保することが不可欠です。
これは、ワークライフバランスを実現し、持続可能な雇用社会を築くうえでの重要な課題といえるでしょう。


