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ワークライフバランス推進の政策展開と労働契約法 #放送大学講義録(雇用社会と法第7回その4)

ーーーー講義録始めーーーー

 

これまで統計を通して見てきたように、「仕事と生活の調和」という観点は、労働法上においても重要な政策課題として認識されるようになりました。

2002年には、内閣府が「少子化対策プラスワン」を発表し、少子化対策に加えて、男性を含めた働き方の見直しが課題として提示されました。

また、2004年には厚生労働省が「仕事と生活の調和に関する検討会報告書」を公表しました。そこでは、働き方の二極化を前提とした社会から脱却し、労働者が労働時間や就業場所などを多様に組み合わせて選択できる社会を目指して、ワークライフバランスを推進していく方向性が提唱されています。

そして、2007年12月18日には、内閣府が「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)憲章」および「仕事と生活の調和推進行動指針」を策定しました。これらは政府、地方公共団体、経済界、労働界が共同で参加する形で作成されたものであり、ワークライフバランス政策の基本理念を明示した文書です。

憲章では、仕事と生活の調和が実現した社会の姿として、次のような理念が示されています。

「国民一人ひとりがやりがいや充実感を感じながら働き、仕事上の責任を果たすとともに、家庭や地域生活などにおいても、子育て期、中高年期といった人生の各段階に応じて、多様な働き方、生き方が選択・実現できる社会にしていこう。」

ここでの重要なポイントは、「多様な働き方・生き方が選択できる社会」という理念にあります。
この理念を具体化するために、憲章では次の3つの観点が示されています。

  1. 就労による経済的自立が可能な社会

  2. 健康で豊かな生活のための時間が確保できる社会

  3. 多様な働き方・生き方が選択できる社会

これら3点は、相互に補完し合う社会的目標として位置づけられています。


欧州におけるワークライフバランス政策との比較

ヨーロッパ諸国においても、「仕事と家庭の調和(Work–Family Balance)」という概念のもと、男女双方が職業生活と家庭生活を両立しやすい社会の実現が政策課題として重視されています。特に、男女の賃金格差や雇用におけるジェンダー格差の是正が重要な柱として位置づけられています。

中でもオランダは、多様な働き方を制度的に保障している国として知られています。
「世界一子どもが幸せな国」とも呼ばれるオランダでは、ライフステージに応じたリモートワークやパートタイム勤務の柔軟な選択が可能であり、政府がその選択を支援する政策を積極的に推進しています。
オランダでは、個人が自らの働き方を自由に選択できるよう、政府が制度的な後押しを行うという発想が根底にあります。これは、家族と過ごす時間を確保しつつ、働く意欲を尊重する仕組みといえるでしょう。

長時間就労を希望する人はそれを選択し、家庭や育児との両立を重視する人は短時間勤務を選ぶことができる――こうした柔軟で多様な選択が尊重される社会を目指しています。

ただし、こうした社会を実現するためには、一企業の努力だけでは不十分です。
保育制度、教育制度、地域支援体制といった社会的インフラと連携しながら、社会全体で環境を整備することが不可欠です。


労働契約法と「労働生活の調和」理念

日本においても、2007年に制定された労働契約法において、「仕事と生活の調和」が法的理念として明文化されました。
第3条第3項には、次のように規定されています。

「労働契約は、労働者及び使用者が労働生活の調和にも配慮しつつ締結し、又は変更しなければならない。」

この条文は理念規定と解されますが、現代の雇用社会において、労使双方が「働き方」と「生活の質」を調和させる責任を共有するという重要な視点を提示しています。

とはいえ、依然として日本社会では男女の役割分担意識が根強く、仕事と生活の調和という発想が十分に定着しているとは言えません。
政府は「選択できる社会」を目指して政策を展開していますが、企業文化や社会意識の変革が伴わなければ、真の意味でのワークライフバランス実現は難しいでしょう。

本日の講義では、こうした政策展開と法的理念を踏まえ、皆さん自身が「どのような働き方が望ましいのか」を考えてみてください。
ここが本日の最も重要なポイントです。