ーーーー講義録始めーーーー
諸外国との労働時間比較
まず、諸外国の年平均労働時間を比較してみましょう。
最新のOECD統計によれば、最も労働時間が長い国は韓国です。次いでアメリカ、日本、イギリス、フランス、ドイツの順に短くなる傾向が見られます。
日本では、1987年には年間総実労働時間が2,120時間を超えており、当時は現在の韓国に近い水準にありました。その後、労働時間は緩やかに減少し、近年ではアメリカとほぼ同程度の水準になっています。一方、フランスやドイツでは1,400〜1,500時間台と、労働時間が相対的に短い点が特徴です。
日本の労働時間の実態
このような統計を見ると、「日本の労働時間はそれほど長くないのではないか」と感じるかもしれません。しかし、もう少し詳細な統計を確認すると、実態が異なる面も見えてきます。
日本の年間総実労働時間の推移を見ると、1993年には約1,920時間であったものが、2017年には約1,721時間にまで減少しています。平均的に見れば極端な長時間労働ではなく、近年は緩やかな減少傾向を示しています。
パートタイム労働者の増加という要因
こうした平均労働時間の減少には、パートタイムや短時間労働者の増加が大きく関係しています。
年間総実労働時間の統計は、フルタイム労働者だけでなく、労働時間の短いパートタイム労働者や非正規雇用者を含めた平均値であるためです。
そのため、非正規雇用の比率上昇が、平均労働時間の見かけ上の減少をもたらしていると分析されています。実際には、フルタイム正社員の労働時間は依然として長く、業種や職種によっては過労死ラインを超える水準が続いているケースもあります。
週49時間以上労働する者の割合
次に、長時間労働を行っている人の割合を見てみましょう。
週49時間以上働いている者の割合を国際比較すると、日本では男性が28.6%、女性が9.1%となっています(総務省「就業構造基本調査」2017年)。これは、イギリスやフランス、ドイツよりも高い水準であり、依然として長時間労働が社会に根強く存在していることを示しています。
すなわち、日本は平均的な労働時間で見れば短縮傾向にあるものの、**長時間労働者の割合が依然として高い「二極化構造」**にあるといえます。今後は特に長時間労働層に焦点を当て、その短縮・適正化を図ることが重要です。
長時間労働の弊害
慢性的な長時間労働は、疲労蓄積やストレス増大、メンタルヘルス不調などの健康リスクを高めるだけでなく、睡眠不足による集中力低下や労働災害の発生リスクを増大させます。また、過労死や過労自殺といった深刻な社会問題にもつながりかねません。
さらに、ワーク・ライフ・バランスの観点からも、長時間労働の是正は不可欠です。労働時間を適正化することで、労働者のモチベーション向上や企業への定着率改善、優秀な人材確保にも寄与します。今後は、健康確保・生産性向上・多様な働き方の両立を目指した制度運用が求められています。


