ーーーー講義録始めーーーー
ここでは、労働分野における差別禁止のルールについて確認していきましょう。
労働基準法第4条:男女賃金差別の禁止
労働基準法は、賃金における男女差別の禁止を定めています。それが労働基準法第4条です。
条文には次のように定められています。
「使用者は、労働者が女性であることを理由として、賃金について男性と差別的取扱いをしてはならない。」
賃金は労働条件の中でも最も重要な要素であるため、労働基準法が直接的に規制しています。
一方で、採用・昇進・配置など賃金以外の事項については、男女雇用機会均等法が定めています。
これまでの裁判例では、男女の職務内容に実質的な差がないにもかかわらず、別の賃金表を適用する場合や、形式的に性中立的な支給基準であっても結果的に女性に不利益をもたらす場合には、労働基準法第4条違反と判断されています(例:住友電気工業事件・最二小判平成7年2月28日)。
また、「差別的取扱い」とは不利な取扱いだけでなく、有利な取扱いによっても他方の性に不利益を与える場合を含みます。
この条文に違反した場合は30万円以下の罰金(労基法第120条第1号)が科されるほか、不法行為として損害賠償請求の対象となることもあります。
男女雇用機会均等法:直接差別の禁止
次に、男女雇用機会均等法のルールを見ていきます。
この法律は、性別を理由とする直接差別の禁止を定めるものです。
(1)募集・採用段階
男女雇用機会均等法第5条は次のように規定しています。
「事業主は、労働者の募集および採用について、その性別にかかわりなく、均等な機会を与えなければならない。」
したがって、「女性を募集対象から除外する」「男性のみ応募可とする」といった採用方法は違法となります。
(2)採用後の取扱い
第6条では、募集・採用以外の場面、すなわち配置・昇進・降格・教育訓練・福利厚生・雇用形態の変更・退職・解雇・定年など、入社から退職までのあらゆる段階において、性別を理由とした差別的取扱いを禁止しています。
この条文は、女性に対する差別だけでなく、男性に対する差別も禁止している点が重要です。
(3)間接差別の禁止
また、平成19年改正により、形式上は中立でも結果として特定の性別に不利益を及ぼす措置(例:転勤可能性を昇進要件とする等)は「間接差別」として第7条で禁止されています。
例外規定
ただし、一定の例外が認められています。
(1)ポジティブアクション(第8条)
第8条は、**「女性の職業生活における活躍を推進するための積極的改善措置」**を認めています。
これは、現実に不利な立場に置かれている女性を政策的に支援するもので、一定の条件下で「女性を優先的に登用する」などの措置が許されます。
(例:管理職比率が極端に低い職場で女性登用を重点的に進める場合など)
(2)業務の性質上、性別が必要な場合
また、第5条・第6条の但書に基づき、業務の性質上特定の性別が不可欠な場合には例外が認められます。
たとえば、芸術・芸能分野の俳優、異性の身体検査や警備など、防犯上または身体的接触を伴う職務において、性別の要件が合理的に認められる場合があります。
📊 図表:性別を理由とする差別禁止の体系(要約)
| 法律 | 条文番号 | 主な禁止内容 | 例外 |
|---|---|---|---|
| 労働基準法 | 第4条 | 男女間の賃金差別の禁止 | なし(絶対的禁止) |
| 男女雇用機会均等法 | 第5条 | 募集・採用での性別差別禁止 | 業務の性質上必要な場合 |
| 男女雇用機会均等法 | 第6条 | 配置・昇進等での性別差別禁止 | 同上 |
| 男女雇用機会均等法 | 第7条 | 間接差別の禁止 | 合理的な要件の場合 |
| 男女雇用機会均等法 | 第8条 | ポジティブアクション(積極的改善措置) | 女性の地位向上目的で限定的に許容 |
まとめ
労働分野における男女平等の法体系は、
① 労働基準法第4条(賃金差別の禁止)を基礎とし、
② 男女雇用機会均等法(募集・採用・配置等の差別禁止)によって包括的に整備されています。
さらに、ポジティブアクション制度や間接差別禁止規定を通じて、形式的平等から実質的平等へと進化しています。
今後は、男女の性別役割意識を超えて、実効的な平等実現をいかに制度として保障するかが大きな課題となります。
参考資料(根拠)
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労働基準法(昭和22年法律第49号)
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男女雇用機会均等法(昭和47年法律第113号)
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厚生労働省『男女雇用機会均等法のあらまし』(令和5年版)
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住友電気工業事件(最二小判平成7年2月28日・労判670号)


