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体験学習で育む新しい道徳教育(道徳教育の理念と実践第1回)#放送大学講義録

ーーーー講義録始めーーーー]

 

道徳教育に対して、皆さんはどのようなイメージをお持ちでしょうか。日本の学校教育では、2015年3月に改訂された学習指導要領において、小学校の道徳科が正式に教科化されました。その背景には、いじめ問題をはじめとする子どもたちのさまざまな課題への対応が求められているという現状があります。では、学校の道徳教育では何を目指し、子どもたちは何を学んでいるのでしょうか。

現在の道徳の授業では、教科書に収録された短い物語を教材として使い、子どもたち自身の経験や感じたことを「こころのノート」に書き込むという活動が中心です。教科書には、実例をもとにした小話が多数掲載され、子どもたちはそれを読みながら「自分ならどう考えるか」「友だちや家族とどのような関わり方が望ましいか」を考えます。しかし、当時の私は、この二つの教材(教科書とこころのノート)があまり面白くなく、授業を退屈だと感じていた記憶があります。

一方で、Iさんはこう語ります。
「小学校の低学年では道徳の授業も楽しく受けられたのですが、中学年あたりになると、読まされる教材の内容や形式が画一的で、次第に興味を失ってしまいました。最初から『またこれか』という気持ちになり、授業に身が入らなかったのを覚えています。」

さらに、Iさんは中学校時代の生徒会活動が、自分にとって大きな学びの場だったと話します。
「生徒会長として企画や運営に携わるなかで、自主性や協調性、多様な価値観の尊重について深く考えさせられました。学校での形式的な道徳授業以上に、『実際に行動すること』の大切さを学んだと思います。」

私自身の経験としては、地方への転校を二度経験したことが大きな学びになりました。
初めて地方の学校に転校したときは、出身地域が異なるというだけでなかなか受け入れてもらえず、一週間ほとんど先生としか話せない日々が続きました。そのとき、「文化の違い」や「互いの理解の難しさ」を痛感しました。帰郷して元の学校に戻った際には、「出身者」ということで温かく迎えられたこともあり、環境や所属が人間関係に与える影響の大きさを実感しました。

これらの体験から、私は「道徳教育とは、単に正解を教えることではなく、一人ひとりが自分自身や他者との関わりを通して『自分はどんな人間なのか』『どう生きていくべきか』を問い続ける場」だと考えるようになりました。というのも、他者を理解しようとしても、結局は自分自身の価値観を通してしか他者を見ることができないからです。その意味で、道徳の授業が目指すべきは「子どもたちが自らの人生の方向性や特性を探究し、対話を通じて視野を広げる力」を育むことではないでしょうか。

以上のように、現在の学校における道徳教育は教材中心の学びに偏りがちですが、実際の行動体験や多様な他者とのかかわりを通じてこそ、真の意味での「道徳的判断力」や「共感力」が養われると私は考えます。今後は、体験学習やプロジェクト学習などを取り入れ、より実践的で参加型の道徳教育を展開していくことが求められているでしょう。