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労働時間の弾力化と今後の課題 #放送大学講義録(雇用社会と法第6回その7)

ーーーー講義録始めーーーー

 

労働時間の弾力化を求める法制度

次に、労働時間の弾力化を求める法制度について、その概要を見ていくことにしましょう。ここでは、変形労働時間制フレックスタイム制裁量労働制の基本的な枠組みについてお話ししておきます。

変形労働時間制

変形労働時間制というのは、一定期間を平均して1週40時間を超えないことを条件に、特定の日や週に法定労働時間(1日8時間・1週40時間)を超えて労働させることができる制度をいいます。代表的には、1か月単位(労基法32条の2)1年単位(32条の4・4の2)1週間単位(32条の5)があり、制度ごとに手続・要件が規定されています。これらの制度の枠内であれば、その超過部分は時間外労働とは扱われません。もっとも、法定休日労働や深夜労働に対する割増賃金(労基法37条)は別途必要である点に留意が必要です。 

フレックスタイム制

次に、フレックスタイム制ですが、フレックスタイム制というのは、勤務時間の決定を労働者に委ねる制度です(労基法32条の3)。清算期間内の総労働時間を定め、その範囲で労働者が各日の始終業時刻や労働時間を自律的に配分します。2019年4月の法改正で、清算期間の上限が1か月から3か月へ延長され、より柔軟な運用が可能になりました。フレックスタイム制でも、清算期間の総枠を超えた時間時間外労働となり割増賃金が必要であり、また深夜・法定休日労働の割増は別途要します。 厚生労働省

裁量労働制

最後に、裁量労働制ですが、裁量労働制というのは、実際の労働時間に関係なく、労使協定や労使委員会決議で定める「みなし労働時間」を労働したものとみなす制度です。**専門業務型(労基法38条の3)企画業務型(38条の4)**があります。
重要な点として、みなし労働時間が法定労働時間を超える設定であれば、36協定の締結・届出が必要であり、時間外割増の支払いも必要となります。また、深夜労働・法定休日労働の割増賃金(労基法37条)は裁量労働制でも当然に必要です。本文のとおり裁量性は高いものの、「原則として時間外労働と扱われない」とは言えず、みなし時間の設定・割増の取扱いを正確に理解する必要があります。 

事業場外労働のみなし制

このほか、労働時間をみなす仕組みとして、事業場外労働のみなし労働時間制労基法38条の2)というものがあります。外回りの営業など事業場外で労働し、労働時間の算定が困難と認められる場合に、「所定労働時間」または「当該業務の遂行に通常必要とされる時間」をみなし労働時間とできます。テレワークでも、使用者の具体的な指揮監督が常時及ぶ仕組みがない等の要件を満たすときに限り適用可能で、常時通信での指示・把握ができる態勢がある場合は適用が否定され得ます。 テレワーク総合ポータル

参考文献の紹介

ここで、1冊の本を紹介しましょう。この本は、岡崎淳一さんの『働き方改革の全て』です。著者は、厚生労働審議官として働き方改革の実務を担った方です。
働き方改革関連法の改正事項は、労働時間に限らず多岐にわたります。一部の制度については、誤解が広がっている部分もあります。どのような経緯で法律が改正されたか、どのような狙いがあるのか、また、労働時間、賃金、休日制度など、各企業でどのような対応が求められているかが分かりやすく解説されています。
働き方改革関連法の立法趣旨に沿った形で、実際に働き方を変えていけるかどうかが問われていると言えるでしょう。
(※本節の書籍紹介は資料紹介として維持しつつ、法的根拠の参照は**一次資料(厚労省/法令)**を優先します。)

 

 

 

労働時間法制の課題

では、3番目のポイントである労働時間法制の課題について見ていくことにしましょう。ここでは、3点についてお話しします。

1. 労働時間の上限規制の実効性

1つは、労働時間の上限規制の実効性についてです。これまで我が国では、大臣告示の限度基準(行政指導)は存在したものの、2019年の働き方改革関連法により、上限が法律で明確化されました。原則:月45時間・年360時間、特別条項でも年720時間、複数月平均80時間以内、月100時間未満、45時間超は年6か月までという枠組みです。違反は労基法違反として指導等の対象となり得ます。これらの規定が社会に浸透し、実効性を持つことが重要です。

日本は、ともすると長時間働くことが素晴らしいという文化的背景がありましたが、今後は短時間で成果を上げる意識が求められます。そのためには、法律の適正運用労使によるルール遵守が社会的に共有されることが重要です。

2. 自律的な働き方の推進

2番目に、自律的な働き方の推進という観点が重要です。テレワークの普及により、同一場所・同一時間に拘束されなくても成果を上げられる業務が増えています。第4次産業革命とIT化の進展により、遠隔会議や分散型の業務運営が一般化しました。
自律的な働き方が浸透するためには、労使でのルール形成ワークルール教育など、基盤整備が欠かせません。事業場外みなしフレックス等の適切な運用も、その前提となります。 厚生労働省

3. 労使の交渉による働き方の改善

3番目のポイントは、労使の交渉による働き方の改善です。36協定は労使の協定で行われますが、過半数代表の民主的選出と意見集約、協定内容の明確化・周知が十分でない事例もあります。上限規制の遵守健康確保策を含む協定運用の適正化が、今後の課題です。 都道府県労働局所在地一覧

まとめ

では、最後に、第6回のまとめをしていきたいと思います。
1つ目は、労働時間政策と法の役割ということを見てきました。長時間労働の実態は、過労死や過労自殺といった問題の原因になっています。
2番目は、労働時間の法規制について確認しました。特に労働時間の上限規制について、法定化された具体的上限(月45・年360/年720・複数月80平均・月100未満等)を再確認してください。 厚生労働省
3番目は、労働時間法制の課題です。我が国の常識の1つである「同一場所・同一時間」の働き方から、自律的な働き方へと軸足を移しつつあります。法制度を適切に理解し、労使で運用を磨くことが、これからの課題です。