ーーーー講義録始めーーーー
コロナ禍における行政のあるべき姿
風営法に基づく立入調査の問題点
はじめに
今日はこれまで学んできたことを復習しながら、もう一度新型コロナウイルスの問題を取り上げてみたいと思います。
ケースの概要
今回出てくる記事は、警視庁の警察官が歌舞伎町のホストクラブやキャバクラに対して立入調査を行ったというニュースです。これも新型コロナウイルスの問題が起きてしばらくしてからの記事なのですが、感染が非常に相次いでいるということで、風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(以下、「風営法」)に基づく立入調査を警視庁が実施しました。そしてその際に、東京都の職員も同行して、感染拡大防止のガイドライン(感染防止策)を守っているかどうかを確認したり、指導したりした、という報道内容になっています。
問題の所在
さて、この調査自体には特に大きな問題はないように見えるのですが、そこでまず確認しておきたいのは、風営法の位置づけです。風営法は、善良の風俗と清浄な風俗環境を保持し、少年の健全な育成に障害を及ぼす行為を防止するために、風俗営業等について営業時間・営業区域等の制限や年少者の立入り規制等を行い、さらに業務の適正化を促進することを目的とする法律です。
そのうえで、風営法に基づく「報告及び立入り」の権限(第37条)は、「この法律の施行に必要な限度」において行使できるものとされています。 つまり、立入調査それ自体が直ちに違法というわけではありませんが、何のために(どの目的で)その権限を使っているのか、そしてその目的に照らして必要最小限度かが問われます。
ここで報道では、警察官は風営法に基づいて、営業時間を守っているか、未成年が接客していないか等を確認し、同行した都の職員が感染防止策を確認したり指導したりした、とされています。
この構図を行政法的に見ると、次の点が問題になります。
第一に、警察官による立入りが風営法37条に基づくものである以上、それは「風営法の施行に必要な限度」でなければならず、また同条2項の権限は「犯罪捜査のために認められたもの」と解してはならないとされています。
したがって、仮に「感染症対策の履行状況(衛生行政)」を主目的として、風営法の立入権限を事実上利用しているように見える場合には、**権限目的との不整合(目的外・濫用の疑い)**が生じ得ます。ここが、警察関係者から「違法行為と捉えられないか」といった声が出てくる背景として理解できます(少なくとも、行政法の観点からは“疑義が出る構造”になっています)。
第二に、東京都職員が感染防止策を「確認・指導」すること自体については、事実としては報道されていますが、その実施態様が、相手方に応諾義務を課したり、不利益を伴わせたりする「強制的」な行政調査に当たるのであれば、一般に法律または条例の根拠が必要である、という整理になります。 逆に、相手方の協力に基づく任意の確認であれば、その限りでは直ちに同じ問題状況にはなりませんが、いずれにせよ、任意か強制か、根拠は何かを切り分けて考える必要があります。
これは一体どういうことなのか。立入調査をしているのだけれども、風営法に基づく立入調査と、感染拡大防止のための確認・指導というのは、少なくとも法的な根拠・目的の点で同一ではない可能性がある、という話が見えてきます。この問題について、これから詳しく見ていきたいと思います。
公権力の恐ろしさと必要性
行政法を学ぶ意義
最終回ということでまとめになるわけですが、これまで学んだ知識を踏まえた上で、もう一度この新型コロナウイルス問題を考えてみたいと思います。
これまでいろんなことを学んできたのですが、行政法を学ぶ際、あるいは実際にそれを適用する際に重要なのは、やはり公権力というものは非常に恐ろしいものであるということを確認することだと思います。
公権力の二面性
普段、いろんな秩序の維持のために公権力というものがあるわけですが、それはやはり一度暴走し始めると非常に恐ろしいものになりますから、それをいかにコントロールするかということが大事になるわけです。これがまさに行政法の存在意義です。公権力を制御する、そのための法律なんだということを忘れないでほしいと思います。
土地収用の例
わかりやすい例としては、第4回で土地収用を見てきました。この土地収用というのは、強制的に土地を取り上げるということで、公権力の中でも最も強力なものであると言えるわけです。
私が授業で受講生の方にこういった収用というものは非常に強力で恐ろしいものなんだよということを言うのですが、なかなか伝わりません。そこでどうするかというと、合わせてニュースのビデオを見せるんです。実は、激しく抵抗する土地の所有者・権利者を、警察官や公務員の人が引きずり出すというシーンが時々出てくるのですが、それを見るとみんなびっくりしてしまうんですね。「いや、なんかこんな恐ろしいことやっていいのだろうか。こう嫌がる人を無理やり連れ出すことが本当にいいのだろうか」といった疑問を示してくれるわけです。
公権力の正当化
ただ、こういった公権力の行使というのは、行政法においてもやっぱり必要不可欠なものということで、公権力の行使を制御するだけでなく、あわせてその公権力の行使を正当化する、根拠づけるという機能もあるわけです。
ですから、やはりこういった権力の行使というものは必要なんだ、それが適切に行使されないと公の利益を守ることができないんだということを覚えておいてほしいと思います。
これから例えば公務員を目指しているという学生さんもいるかもしれませんが、公務員になると、やはりこの行政法を使っていろいろ公権力を行使するという、そういう場面に出くわすかもしれません。そういった場合に、常に自分たちが行使している権力は恐ろしいものなんだということをしっかり認識しながら行使してほしいというふうに私は思っています。
| 事項 | 典型的な法的性質 | 根拠・限界(講義で押さえるポイント) |
|---|---|---|
| 風営法37条の「立入り」 | 法定の行政調査(立入権限) | 「この法律の施行に必要な限度」/立入場所の列挙/身分証携帯提示/犯罪捜査目的に解してはならない |
| 運用上の留意(必要最小限・無用の負担回避等) | 権限行使の限界の具体化 | 立入りは法施行に必要な限度、報告・資料提出で足りるなら立入りは控える等 |
| 都職員の感染防止策の確認・指導(報道の範囲) | 事実としては「確認・指導」と報道 | それが任意協力か強制調査かで要件が異なる/応諾義務や強制力を伴うなら法律・条例の根拠が必要(一般論) |
