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コロナ禍の立入調査は適法か――風営法37条「施行に必要な限度」と権限濫用 #放送大学講義録(行政法第15回その2)

ーーーー講義録始めーーーー

 

公権力の適切な行使とコロナ禍の課題

 

公権力の必要性


公権力は必要である、社会の秩序を維持するということもありますし、例えば公衆衛生を保つ、今回の感染症拡大防止なんかまさにそうでしたよね。みんな、行動を制限されるのは嫌だ、しかしそれでもやっぱりその公権力でそうやって公衆衛生を保たないと多くの人の健康とか命が失われてしまうわけです。

ですから、やはり適切に、そして適切なタイミングで、適度に行使するということが大事になってきます。そのため、公権力を単に恐れるのではなくて、それをきちんと行使していくというふうに注意しなければならないわけです。

 

日本における公権力の現状


今の日本においては、全体的な傾向としては、公権力の行使が十分な制約が及んでいる、公権力が暴走するということも稀ではあるのですが、大体の場合においてはきちんとコントロールされているというふうに言えると思います。

ところが、2020年の新型コロナウイルス感染症の拡大、とりわけ2月以降に社会的影響が急速に強まっていく過程においては、公権力に対する抑制が効かなくなってしまう、公権力が暴走しているんじゃないのかというような疑いが生じることもあったんですよね(日本での初期の確認は少なくとも2020年1月の段階から公表されています)。 その一つの例として今回の記事を見ていきたいと思います。

 

接待を伴う飲食店の問題


今回の記事ではホストクラブが出てきますが、他にもキャバクラといった風俗営業等のお店が今回問題になったんですよね。こういったお店は接待を伴う飲食店ということでして、店員さんがお客さんのすぐ真横に座って接待をするということになりますので、当然店員さんとお客さんの距離が近いということになります。近いがゆえに、やはり感染が広がってしまうのではないかということが危惧されていたわけです。実際、接待を伴う飲食店(ホストクラブ等)に関連して感染者が多数確認されたという報道もありました。

そこで警視庁(警察の組織である警視庁)が、報道では風営法に基づいて歌舞伎町などの接待を伴う飲食店に立ち入り、営業時間を守っているかや未成年が接客していないか等を確認し、同行した東京都の職員が新型コロナの感染防止策を確認したり指導したりした、という記事でしたね。
ここは言い方が大事で、風営法の条文上は、報告徴収は公安委員会が行い、立入りは警察職員が「この法律の施行に必要な限度」において行える、という規定の建て付けになっています。 一方で、都職員が行った「感染防止策の確認・指導」は、報道上は“同行して確認・指導した”と説明されていますが、少なくともそれ自体を「都が風営法に基づき立入調査した」と一括りに言うのは正確ではありません。

確かにこういった飲食店、接待を伴う飲食店で感染者が多く確認されるなどして、何か対策を取らないといけないわけです。それはみんな実感していたというか、認識していたわけですが、じゃあどういった法的根拠に基づいてこの「立入」や「確認・指導」をするのかっていうのが、かなり難しかったんですよね。

 

法的根拠の重要性と権限濫用の禁止


一般的な反応と行政法的な問題


おそらく皆さんは、このような東京都の対応に疑問を抱かないのではないでしょうか。つまり、感染防止対策を強化して国民の健康や生命を守ることは重要な公益だと。そのために東京都も警視庁も一生懸命頑張っている、それは望ましいことであるというふうに多くの人が考えるのではないでしょうか。

ただ、行政法の世界では法的な根拠というのが大事でして、その法的根拠から見ると、どの権限を、どの目的で、どこまで使えるのか、という点で違法性の疑いが生じ得る調査だった、ということを覚えておいてほしいと思います。

 

行政調査の要件


これはどういうことなのかというと、第8回の講義でも見ましたように、こういった立入調査のことを行政調査と呼んでいます。この行政調査は、プライバシーなどへの影響を持ち得るので、行政法上の限界が問題になります。特に、行政調査に応諾義務を課したり、強制力を付与したりするためには、法律や条例の根拠が必要である、という整理が一般的です。
他方で、相手方の協力に基づく任意の調査については、法律・条例の根拠を必ずしも必要としないと整理されますが、法令が要件・手続・限界を定めている場合には、それに違反してはならない、という制約は当然にかかってきます。
そして、調査が過度になって基本的人権を不当に侵害してしまわないように、目的に照らして必要最小限であるか、過度な負担を課していないか、という観点からも吟味しなければならない、こういう問題意識が行政法にはあるわけです。

これは、行政が暴走して基本的人権を侵害してしまわないように、国会が厳しく監督する、国民の代表である国会議員が厳しく監督する、その監督がきちんと機能しているかという問題と関わってきますよね。

 

風営法の規定


風営法の条文を確認してみると、その第37条に報告徴収や立入りの権限が置かれています。ただそれは、「この法律の施行に必要な限度」において行うことが前提になっています。
ですので、例えば合理的な理由なく特定の業種や店舗だけを狙い撃ちにして、必要性を超えて過剰な調査をしたりすると、平等原則や、過度な侵害を避けるべき要請との関係で問題になり得る、ということになります。 ただ、今回の記事を見る限りは比較的穏当な調査であるということで、問題がないように思えるのですが、ここでポイントになるのは、風営法の「目的」と、その目的に照らした権限行使の限界です。
風営法の目的は、営業時間や営業区域等を制限することだけではなく、善良の風俗と清浄な風俗環境の保持、少年の健全な育成に障害を及ぼす行為の防止、そして業務の適正化の促進まで含むものとして定められています。
そのうえで、報道では「警視庁は風営法に基づいて立ち入り、都職員は感染防止策を確認・指導した」と説明されています。 もし感染症対策(衛生目的)それ自体を主目的として、風営法37条の立入権限を事実上利用しているように見えるなら、「この法律の施行に必要な限度」という条文上の枠組みとの整合性が問われ、目的外利用・権限濫用の疑いが生じ得る、ここが今回の問題として見えてくるわけです。

 

権限濫用の禁止


これも実は第5回の授業で見たのですが、法律によって認められた規制権限は、その法律の目的のために行使されるべきであって、目的から外れた行使は問題になる、という考え方があります。今回でいえば、風営法37条の立入りは「この法律の施行に必要な限度」で行う、という枠の中で理解されるべきものです。
例えば、不当な動機で行使するということも当然許されませんし、法律の本来の目的から外れている場合も、やはり問題になり得るんですね。ですので、広い意味で公の利益のために権限を行使していると言えるのだけども、その法律の本来の目的から外れてしまうという場合には、やはり適法性が厳しく問われる、ということになります。

 

行為 典型的な根拠(整理) 目的・限界のポイント  
警察職員による風営法の立入り 風営法37条(立入り) 「この法律の施行に必要な限度」=目的・必要性の枠内でのみ適法  
都職員の感染防止策の確認・指導(報道) 報道上は「同行して確認・指導」 それが任意の協力か、応諾義務・強制力を伴うかで要件が変わる  
行政調査一般 任意/強制の区別 応諾義務・強制力付与には法律・条例根拠が必要/任意は必ずしも不要